長い夢

□冥姫 第二十六話
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「嘘だと思うならこれを使いなさい」


五芒星のマークが入ったお守りを手渡された。


「私は他の人達に話しがあるから終わったら帰るわね

見送りはいいから心の整理でもなさい」


母上は部屋を出て行った。





客間で母は土方と沖田と対面していた。


「あなた達のおかげでお見合いは破談になりました」


笑顔だ。


「あんたには迷惑をかけた」

「私の殺気を浴びてなお美月を攫いにきたのは仲間としてかしら?」


全て分かっていて聞いている。


「それだけじゃない」

「二人とも美月を好いてくれてるのね」

「否定はしないが…何が言いたいんだ」

「お礼が言いたくて
お見合いを破談にしてくれてありがとう」


二人には本心なのか嘘なのか読めない。


「まるで破談にしたがってたみたいな口振りだな
それとも嫌味か?」

「元々あっちが無理言ってきたのよ
大人の事情で断りきれなくて、でもお見合いを受けるさい断りやすくするために条件をだしてたの」

「条件?」

「もし美月を攫いに来た人がいたなら無条件で引き下がること。

あなた達が攫いに来てくれたおかげで円満破談したのよ」


賭けに近かったかしらと笑う母。


そして土方はあることに気がついた。


「なるほど俺たちは まんまとあんたのシナリオに乗せられたってことか
何が孫が欲しいから結婚しろだよ」

「土方さん どういうことですか?」

「俺や近藤さんの前で見合いの時刻や場所を言ったのは宮中に教えるためじゃない

俺たちに教えるためだったんだ、
巧妙に母娘の言い合いに紛れさせてな」


日時はともかく美月に場所まで言う必要はない、
場所を教えるのは現地集合の場合だ

見合いの準備のために一旦母と落ち合い、連れて行かれる美月にはあの場で教える必要性がない。

さらに待ち合わせ場所のみ口で伝えずメモで伝えたのも今 思えば不自然だ。


「兄君は美月にとってはお兄さんみたいな存在ですもの」

『今回のことで兄君も思い知ったでしょう』


破談になるように仕向けた。


「美月は気がついてないから秘密にしておいてくださいね」


結果的に二人は掌(てのひら)の上で転がされた。


「あんた大した女だな」

「二人のことは涼夜に教えて(吐かせた)もらってたから、攫いにくるかなあって思ってね」


土方の脳裏に、母上にかかれば涼夜など赤子同然と言っていた美月の言葉が浮かぶ。


「そうそう、涼夜が失礼なこと言ったことは謝ります

涼夜も美月のことが心配であんなことを言ったんです
許してやってください」

「弟のことはもういいが…
もし俺たちが攫いに来なかったらどうする…」


ここで土方はまたあることに気がついた。


「…あんた 宮中が言ってたとおりタチが悪いな
俺たちを試しただろう」

「人聞きが悪い、ただあなた達が本当に美月を想ってるか最終確認させてもらっただけ

私の殺気を受けて私に歯向かうなんてね、滅多にないことよ」


悪びれもせず答えた。


「合格したってことでいいんだな」


土方は戯言で返す。

 
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