□冥姫 第四十二話
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それは突然の訃報だった。


定食屋の親父さんが亡くなった、と知らせが入ったのは昼。


すぐさま土方さん、近藤さん、沖田さん、私でお葬式の会場である定食屋さんに向かった。


受け付けのある一階にはすでに人が結構きていて、軽く混雑している。

人情家だった親父さん、人徳も厚いのだろう。

受け付けで名前を記帳しておばさんに挨拶をする。


「あらまあ真選組のみんなが来てくれるなんて
わざわざありがとうね」

「おばさん…この度は…」

「美月ちゃん‥そんなにしんみりしないでおくれよ」


苦笑する おばさん。


「あの人は湿っぽいのが嫌いなんだから笑って送ってあげて」

「はい」


棺の安置されている二階に行き顔を見た。

親父さんは穏やかな顔で眠っている。

棺の前に座ると土方さんが叫んだ。


「親父ィィィィィ!!
まだ…まだ早いだろうがァァ!」


感情が押さえきれなくなったらしく叫びは続く。


「俺ァどうやって恩(ツケ)を返しゃいいんだ…
親父ィ…アンタが作ってくれた土方スペシャルの味、忘れないぜ!」


悲痛な表情で叫ぶ土方さんを近藤さんが引きぎみに宥(なだ)める。


「トシ 御霊前だぞ、デケー声だしたら親父さんがびっくりするだろ」


御霊前を離れて立ち上がったところで万事屋さん達と鉢合わせた。


いつもなら憎まれ口を叩く二人だけど無言で相手に会釈する。


「…惜しい人を…なくしたな」


土方さんがしんみりと坂田さんに話し掛けた。


「ああ…江戸の宝が一つ消えちまったな…」


坂田さんもしんみりと返す。


二人以外は二人の反応に驚き、二人を習ってしめやかに送ることにした。



私たち真選組と万事屋さんたちは最後尾に座る。


お坊さんが来て読経とともにお葬式が始まった。


しばらくは何事もなく静かだったんだけれど


「アレェェェェ!!
いやいやいやいやアレェェ!
オイぃぃぃ
アレェェェェェ!!」


坂田さんが騒ぎだしたかと思えば


「オイィィィ!アレ!アレェェェ!アレだってば!
アレェェェェェェ!!」


右隣に座っている土方さんも騒ぎだした。


「土方さん、お葬式中ですよ
静かにしてください」

「そうだぞトシ、いい加減にしろ」

「なに葬式でテンションあげてんですか
じきに土方さんの葬式も開いてあげやすよ」

「いやいやアレェェェ!
アレェェェェェ!」


いつもは噛み付く沖田さんの言葉にも反応せず、棺桶の辺りを指差し、何かを必死に訴える土方さん。

 
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