□冥姫 第五十三話
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真選組では様々な会議が行われる。

今朝もそんな会議の一つ、全体会議の日。


いつもなら三十分前には所定の場所に鎮座している土方さんだが
今、土方さんが座る座布団は空席。

今日は一度も暖められていない座布団。


現在八時二十分
局中法度に違反しているとか、
その局中法度を作成した本人が、とか
ひそひそ話が隊士さんたちに蔓延している。


「鉄、トシの様子を見てきてくれ」

「はい」


土方さんを起こしに行った佐々木さんが戻ってきた

なぜか襖にダイブしながら。


ダイブなんかするから襖を下敷きに倒れている。


よく見ると佐々木さんは仰向け(あおむけ)に倒れ、鼻と口の端からは血がたれていた。

殴られた?


「まだ布団と仲良しな時間だろうが!」


枕を片手にパジャマを着たまま、寝癖がついたままの土方さんが立っている。


皆、唖然とした。


誰?と言いたくなるほどの豹変ぶり。


「今から二度寝の時間だ」


言うだけ言って自室に戻っていった。


二度寝のあとの土方さんを近藤さんと沖田さんと私、三人でこっそり観察。


着替えて顔を洗ったあと、小さい棒つき飴を口に銜える。


「…総悟、美月ちゃん、俺は夢でもみてるのか、
それともアイツがいつもと違いすぎるのか」

「近藤さんは起きてますよ」

「頭の悪いマヨネーズ(もん)の食い過ぎでああなっちまったと思いますがねェ」

「しかしアイツが局中法度を破るとは……
隊士達にはごまかしたが……いつもと違いすぎる」


土方さんが自分にも他人にも厳しいのは周知の事実、
隊士なら誰でも知っている。


土方さんは気の抜けた様子で欠伸(あくび)をしている。

見たのは初めてかも。


「考えすぎじゃねェですかい、寝坊でしょ」


寝坊では片付けられない、明らかに土方さんがおかしい。


「それにしてもあいつ、あんなに気の抜けた顔してたか」


確かにいつもとは顔つきが違う、
でもどこか既視感(きしかん)も覚える。



これからパトロールの時間

毎朝 土方さんの局中法度読み上げが通例。


そういえば、いつも上着をきっちり着ているのに今日は上着を羽織っている。


さらに第一条から言い淀み、間違い、山崎さんから異論があがった。


え?どういうこと?


まず忘れることがおかしい、
仮にうっかり忘れたとしても

局中法度を忘れたことをとがめる奴は士道不覚悟で切腹、って……

間違いの取り繕い方がおかしい。


最後は力業で異論を強引にねじ伏せた。


忘れたというより、知らないことを誤魔化したような印象をうける。


その後 遠回しに局中法度を廃止すると言った。


動揺が広がるなか、土方さんは三度寝するためその場を後にした。

 
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