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□ワンワン・パニック
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 課長は甘い声で可愛いと言いながら私の頭を撫でる。その心地よさに、思わず私は目を細めて舌を垂らした。
「気を付けないと噛まれますよ」
 その声は、――私は驚きに何時のまにか寝ていた耳を起こした。――チチチ、チーフ!!
 何故二人して私の家に!?
「まさか犬が恐いのか?」
「違いますよ。見たところその犬、紀州犬じゃないですか。そういう犬種だから、気を付けなさいと言ったんです」
 課長はニコニコしながら私の頭を撫で続ける。
「そんなことないよねえ?孔明のやつ、な〜んか喧々としているよなあ」
 顔を伏せたままちらりと視線を上げると、チーフがその冷ややかな眸に刺々しさを誂わせたような、幾分痛い視線で私を見下ろしていた。こ、恐い…。
「大体何故、趙雲は課長に預けるんです」
「分からないけど、デスクに書き置きを残して、自宅の鍵まで私に預けたんだ。ほっておけないだろう」
 (チーフが「ほっておけばいいのに」と言うように白い目で宙を睨んでいるのは見なかったことにして、)私はそんな書き置きを残した覚えはないし、鍵も昨晩帰宅したときに玄関の下駄箱の上に置いたはず。何故、そんなことに…。
 とにかく、察するに私が犬を飼っていて、(恐らく出張のために、)犬の面倒を暫く見てほしい、と課長に書き置きを残し、鍵を預けたことになっているのだろう。

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