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□理由
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褪せた水色をした鉄の玄関ドアを開け中に入り、靴を脱ぎながら傘を脇の壁に立てかけると後ろ手で鍵を閉めた。
鞄を床に放り、一息つく。
カーテンは開けっ放しで、窓から濡れて黒く染まった住宅群と、あの曇り空が広がっていた。
そして部屋は暗がりに仄かな日の光が滲み、そしてどこか冷ややかだった。
私は満足して、オーディオにCDをセットして音を流した。
ビリー・ホリデイのレディ・シングズ・ザ・ブルースだ。
私が初めて雨を降らせたのはこのCDを手に入れたときだった。
私は雨の音と共にアメリカンジャズを聴くことが好きで、このCDを家に持ち帰ってビリー・ホリディのグッド・モーニング・ハートエイクを聴くのにどうしても雨を降らせたかったのだ。
そうして三降りのうち、一降りを使い切った。
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