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□水魚わらう
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「孔明、冷たい飲み物もってきたよ〜…わっ、なにこの部屋寒い!」
 グラスの載ったお盆を手に、劉備は顔をしかめる。
 孔明ははっとして劉備を振り返り、冷や汗を流した。
 劉備の鋭い視線が孔明に向けられる。


 この瞬間、都心の住宅街にそぐわないこの小さな日本家屋で、エアコンのリモコンをめぐる二人の攻防戦が始まった。


「こ〜め〜!お前ときたら!」
 頬を膨らませて睨むその愛らしい顔は、今の孔明にとっては脅威の他何ものでもない。
「りゅ、劉備殿。待ってください」
「もう〜孔明は本当に暑がりなんだから!」
 劉備は慌てる孔明を無視し、ずかずかと部屋に入る。
 そして畳の上に置いてあったエアコンのリモコンを拾い上げ、
「ストップ、温暖化!」と、電源を消した。
「あっ、あ〜…」
 孔明は肩を落とす。
 エアコンの音は萎んでゆくように弱まり、やがて消えた。
「………」
 沈黙の流れる空間に、日本の夏独特の湿っぽい暑さが流れ込んでくる。
 孔明はぎこちない笑顔を浮かべ、おずおずと劉備を見上げる。
「すみません。リモコンを返してください」
「そしたらまた点けちゃうじゃん」

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