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□ある冬の光景
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 ある冬の光景


 劉備は静かに瞼を開く。そしてすぐ、視界に広がる真っ白な光にぎゅうと目を瞑る。
 顔面を刺す真冬の寒さに堪らず布団の中に潜り、小さく身じろいだ。
 そして劉備はいつにもない違和感に声を上げる。
「あっ…?」
 ふっと横を見ると、そこには隣の布団で寝ているはずの孔明が丸まって眠っていた。
「孔明」
「おはよう、ございます…」
 孔明は瞼を閉ざしたまま眉を寄せ、小さく唸る。
「孔明、大丈夫か?」
 劉備は目を丸くし、孔明に囁きかけた。
「お前が寝坊なんて。それに、なんで私の布団のなかに?」
 孔明は更に丸く縮こまって、まるで猫のようだ。
「……寒くって…」
「そうだね…そういえば、今日は特別寒いかも」
「雪が…」
 弱々しい声で言う孔明の言葉に、劉備はぱっと目を輝かせた。
「雪!」
 布団を跳ね退け、窓の外を覗き込む。
「雪だーっ!」
 劉備は町を覆う一面の雪に歓喜した。
 一目散に部屋を出ようとすると、なにかに足を取られ劉備は小さく悲鳴を上げる。
 布団の上に倒れ込み、劉備はおずおずと足首を見る。
「なに…?」
 すると布団の中から腕が伸び、劉備の足を掴んでいた。
「わ、わっ…」
 更にその手は劉備の足を引っ張り、布団の中に引きずり込むと器用に劉備を抱き上げ、後ろから抱きしめる。
「孔明っ?」
 よほど寒いのか、孔明は劉備の肩に顔を埋め、劉備の脚に自分の脚にを絡ませる。
 普段見られない孔明の行動に、劉備は目を瞬かせた。
 孔明は低い声で劉備の耳に囁く。
「暫く、こうしていましょうよ…ね…」
 劉備が身をよじらせ孔明の正面を向くと、孔明は劉備の温かさに惚けて大人しく劉備の胸に収まり、いつもの涼しげな切長の瞳を今は無垢な子供のように、心地よさそうに閉ざしていた。
 劉備は普段見られない孔明の姿、言動に胸をときめかせ、頬を染める。
 そして孔明の頭を抱き、小動物を愛でるように孔明の髪を撫でた。
「う〜、孔明可愛いぞっ」
 しかし、突如劉備の温もりが消えてしまい、孔明はうっすらと瞼を開き劉備を探した。
 ふっと上を見ると、面前に申し訳なさそうに眉を下げ、笑う劉備の顔が広がる。
「すっごく名残惜しいんだけど……ごめん、孔明」
 孔明が目を見開くと同時に、劉備は孔明の頬にキスを落とし、翔ぶように部屋を駆け出した。
「げ、玄徳…っ」
 孔明の腕が劉備を求めて伸びるがそれも空しく。
『孟起ーっ!雪っ、雪だぞー!』
 孔明は元気よく響く劉備の足音に耳を傾けながら、力なく伸ばした腕を落とした。



   終

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