二次創作(只今停滞中m(__)m)

□ある世界の終わり・贖罪の戦士
2ページ/2ページ

『レイレム3、フォックス2! フォックス2!』
『クソ! 直撃でないと破壊出来ない!』
『レイレム1よりレイレム0! 駄目だ、このままでは突破される!』
 視界に映る迎撃部隊。発せられる弾幕は、弾頭迎撃にしてはあまりに薄い。
玲司は己の判断の甘さを呪った。
本来ならM12を撃墜したら、すぐにM13迎撃の支援に行くべきだったのだ。
機体出力、携行火器の威力と精度、搭乗者の練度、その他諸々を考慮した上での戦力分散。この玲司の判断に間違いは無い。
玲司の間違いは、弾薬の消耗率にまで考えが及んでいなかったことだった。
玲司が120ミリ徹甲榴弾を主体として迎撃したのに対し、M13を迎撃中の味方機は空対空ミサイルを主体にしている。徹甲榴弾よりもミサイルの方が、いくら小型化されているとはいえ圧倒的に搭載数が少なくなる。
彼等にもう、迎撃を継続できる程の火力は残っていなかったのだ。
玲司は機体を加速させ、同時にM13にレティクルを合わせる。
「こちらレイレム0! 今そっちに行く!」
《M13の迎撃限界高度到達まで16秒》
スピーカーからタイムリミットを伝えるリーファの声。無感情な声で危機迫る報告が告げられる。
「当たれよ……」
M13目掛け、残りの徹甲榴弾全てを射撃する。
しかし、2発とも空を切るに終わる。
 自機の照準に対して垂直方向に超高速のベクトルを持つ目標を狙撃するには、そのための射撃偏差を割り出すデータも経験も不足だった。
《120ミリの残弾、0》
手にしている長砲身−−AS2C多目的砲撃システムを、120ミリモードから36ミリモードに変更。M13に全力で射撃する。
36ミリは120ミリに比べ、圧倒的な連射力を誇るが、射程と威力においては遅れを取る。命中したとしても、耐弾装甲に覆われた目標には大した損傷を与えられない。
やけくそにトリガーを引き続ける。
一部の砲弾が命中叶うも、やはり効果は無い。
《弾頭の迎撃は失敗。至急、退避して下さい》
自機の安全を考えたのだろう。リーファは撤退を推奨する。
 論外だ。アイツらが命を賭けて護ったものを、自分がおめおめ生き残る為だけに投げ出すことはできない。
「リーファ、一か八か押さえ込むぞ」
《紫織さんと夏稀さんはあの時、街を護る為ではなく、貴方を護る為に命を挺したのですよ?》
玲司は制御AIの音声会話機能を切る。
しかし、切れない。
制御AIを制御する項目が、搭乗者の手を離れている。
《季里さんだってそうです。彼女は貴方が重要任務を担っていたからではなく、貴方が貴方だから盾になったのですよ?》
M13に迎撃部隊が突破される。
着弾まで、多めに見積もっても残り10秒。
《私も同じです。貴方には生きていて欲しい》
「俺だって死にたくはないさ……
 けどな、死んでも護らなきゃならないものを俺は護れなかったんだよ」
 玲司は彼の機体に眠っていたシステムを起動させた。
機体の肩部と膝部の装甲がスライドし、放熱フィンが展開する。
《ATDVS、起動。M13の着弾まで、およそ8秒》
全身に蒼い光の粒子を纏い、機体は更なる加速を得る。
正面、スクリーンの真ん中に、高速で落下する弾頭。
《ベクトルそのまま。カウント5。3……2……》
地面が迫る。
高層ビルや、狭く敷き詰まった住宅街。
彼等によって護られたこの街が、彼等の生きた証なのだ。
 せめて、この街は護りたかった。
本当に護りたいものは、既に亡くしてしまったから。

《着弾、いま!》

スティックを握りしめ、右腕に意識を集中。機体の右腕に光の粒子が集中し、眩しい蒼を放つ。
ATDVSが起動し、強力な力場を正面の弾頭に叩き込む。
同時に、弾頭が起爆。
黒紫色の光が膨れ上がる。
「…………っ!」
蒼と黒紫の、二つの輝きがせめぎ合う。
 ATDVSの影響で、機体を襲う破壊の奔流が玲司の神経にフィードバックされる。
 二色の光が溶け合ったと思うと、やがて辺りは白一色に染った。



 全てが定かでない、何もかもが漂白された世界。
 その中では玲司の意識だけが形を成し、過ぎ去りし日々に思いを馳せる。

大切な人がいた。
 そして、誰一人とて護れなかった。
いつでも思い出すのは、アイツ等と過ごした日々の事。

結実、俺も少しは協力的になれたか?

真、俺はお前の無二の親友になれたか?

夏稀、俺はお前が信頼するに足る存在だったか?

季里、俺はお前の心開ける相手でいられたか?

紫織、……巻き込んですまなかった。俺が巻き込みさえしなければ、お前は普通の少女でいられたのに。

結局俺は、お前達を護れなかった。
後悔と自責に苛まれる中、せめてもの贖罪に俺は戦い続けた。
その行為に意味は無く、またアイツ等が望んでいないと分かっていても、俺は戦い続けた。埋まらない喪失感を抱えて死に急いでいた。
こんな俺を見て、アイツ等はなんと言うだろうか。

 もし叶うなら、俺は。
もう一度でいい、アイツ等に会いたい。
 そして今度こそ、全てを護り抜く。
それが不可能だとわかっていても、願わずにはいられない。

「−−−−おんなじだね」

何処からか声がした。
一瞬、リーファかと思ったが、明らかに聞き覚えの無い少女の声だった。

「−−−−うん、やっぱりおんなじ」

何かに包み込まれるような感触に、玲司は戸惑う。
しかし、声の優しさと包み込まれる暖かさが、すぐに彼の心を落ち着かせる。

「−−−−ねぇ、タケルちゃんを助けてあげて?」

玲司には何の事か分からなかった。
声の主に心当たりは無く、また、タケルという名前にも心当たりがない。

「−−−−タケルちゃんってば、頑固でしょうがないんだよ。もういいのに、もう傷付かなくていいのに、またやり直しちゃうんだもん」

知らない少女は、知らない誰かの事を愚痴っぽく漏らす。
 似たような光景を、玲司も見たことがあった。
 だから何となく、二人の間柄が分かった気がした。

「−−−−もうタケルちゃんが傷付くのは見たくない。だから、助けてあげて?」

そして、少女は付け加える。

「−−−−代わりに、貴方が失っちゃった大切なもの、私が貴方にあげるから」

 白一色だった世界に光が溢れ出す。
 そして、玲司の意識は光に包まれて消えた。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ