二次創作(只今停滞中m(__)m)

□RE:START
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 俺は心のどこかで思っていた。
 もう一度やり直したい、と。
 しかし、霞は俺に言った。
 あなたのやるべき事は終わった、と。
 言葉に納得しきれない思いが、俺の胸の中で足掻き、爪を立てる。
 あの戦いで生き残ったのは、たった二人だけ。
 俺が因果伝導体ではなくなったのも、その原因となった純夏が死んでしまったからだ。
 納得のいかぬ、悲しすぎる結末。
 だから俺は諦め悪く、再び茨の道を歩む決意をした。

        ◇◇◇

「−−つまりアンタは、オルタネイティブ5の発動も、オルタネイティブ4がもたらした結果も、何度も時を遡ることで体験して来た、ってコトかしら?」
香月夕呼は探りを入れる目付きで、目の前にいる一人の男を見据える。
その男−−白銀武は、そんな夕呼の目付きに物おじすることなく、はっきりと答えた。
「はい。突拍子も無い、おかしな話に聞こえるでしょうけどね」
夕呼は、武が信用する、または利用価値がある存在なのか、計りかねていた。
 彼は工作員にしては理解不能な無駄があるし、尚且つオルタネイティブ計画について知りすぎている。
オルタネイティブ4並び5は、既に進行中の計画なので、強大な情報力を持つ組織ならばその概要は知るところだろう。
しかし、彼は言い当てた。
今、夕呼が直面している問題−−半導体150億個の手の平サイズへの小型化、を。
これは未だ国連に報告もしていなければ、また誰かに話したということもない。唯一知っているかもしれない存在はいるが、その少女が外部に情報を漏らすとは考えにくい。
 あらゆる事柄が、武が工作員で無い事を示している。
「でも先生。このイカレた話も、先生の因果率量子論で説明がつきますよね?」
「確かにそうね。でも−−」
 夕呼は懐に手を伸ばす。
自らの状況分析が武を工作員で無いと否定しても、夕呼はその可能性を捨て切れなかった。
「アンタが工作員じゃない証拠、あるのかしら?」
そう言って夕呼は、その華奢な腕で支えるには重過ぎる、無骨な軍用小銃を構えた。狙いの付け方などよく知らないが、脅すには十分な効果があると考えていた。
しかし武は警戒するどころか、むしろ呆れたように溜息をついた。
「……何よ」
「なんていうか、俺はなんでループする度に誰かに銃を向けられるんだろう……、て」
「はぁ?」
「あ、先生。セーフティー掛かったままですよ」
「えっ?」
夕呼は手にした小銃に意識を向ける。
掛けたままだったセーフティーを直ぐさま外すと、武に狙いを付け直す。
しかし、そこに武はいなかった。
「俺が工作員なら死んでますよ?」
夕呼が声のした方向に、反射的に向き直ると、そこには執務室の床に散らばった書類を片付ける武がいた。
武はおおざっぱに書類をまとめると、夕呼に差し出す。
「あ、アンタが勝手に見ていいもんじゃないわよ……!」
そう言って夕呼は武から書類の束を引ったくる。
完全に手玉に取られている事に恥じたのか、その顔はほんの少し紅潮している。
 そして、段々と自分のしている事が実にくだらなく思えて来た。
「駆け引きはこの辺にしときましょうよ。今はそんなことをしている時間も惜しいはずです。心配なら手錠でも足枷でもどうぞ」
 暫しの間、二人の無言の睨みあいが続くが、先に音を上げたのは夕呼の方からだった。
「……そうね」
夕呼も武に同意し、銃にセーフティーを掛け、懐に戻す。
「それじゃ、もう一度、アンタにオルタネイティブ計画について聞くわ」
会話のアドバンテージを取り戻そうとするかのように、彼女は命令っぽく冷静な口調を心掛け、武に質問を繰り出した。
「第5計画は、いつ発動したのかしら?」
「12月24日です」
「いつの?」
「今年。つまり後残り2ヶ月程です」
2ヶ月という、残された時間のあまりの少なさに夕呼は驚愕し、目を見開く。
狼狽を感ずかれぬように直ぐさま表情を元に戻すも、胸の中では焦りと憤りが蔓延している。
「……で、何処でオルタネイティブ計画を知ったのかしら?」
「俺の身の上話を聞いた方が早いですね」
そういって武は、彼が戦ってきた『前の世界』での経験を語り出す。
 彼が別の世界から来たこと。そこで夕呼に拾われて、207訓練小隊に編入されたこと。『その世界』では12月24日にオルタネイティヴ4は破棄され、5に移行したこと。
そして、オルタネイティヴ5――G弾でもBETAを殲滅できず、地球に残された人類は滅びる運命しか残っていなかったこと。
 そして、最後に戦死したと思ったら振り出しにもどるようになっていたこと。
「そして前回のループで初めて、第4計画の中核−−00ユニットが完成しました」
 武は感情を交えず淡々と語り、夕呼は無言で話を聞いていた。
しかし武は『00ユニット』という言葉を口にした瞬間、何かを思い出したのか、深い悲しみの表情を浮かべて語りを止めた。
「で、00ユニットの成果は?」
夕呼が続きを催促するように口を開くと、武は再び語りを始める。
 BETAの情報伝播モデルがオリジナルハイヴを頂点に全てのハイヴがその直下に位置する、箒型構造であること。
 反応炉が通信機能も備えていたこと。
 00ユニットから反応炉を通して情報がオリジナルハイブにもれていたこと。
 武はオルタネイティブ4を進めるに辺り、重要であると考えられることだけを話した。
「俺の話は以上です。後は先生が信じるか、信じないかです」
「ふぅん……」
夕呼は思案顔で呟く。
彼の話を信じるなら、今まで必死に完成させようとしていたものは、実は切れ味の良すぎる両刃の剣だったことになる。当然、何か有効な打開策を見つけ出すか、はたまた計画そのものの根本的な見直しも必要になる可能性もある。
 俄かには信じられない話だが、実に真実味が夕呼には感じられた。
「オレの話は信じられなくても、オレは情報を持っている。それをどうするか、オレ自身の進退も含めて先生しだいですよ」
「……貴方が秘密を暴露しないという保証は……あるのかしら?」
「それこそオレの立場が保証でしょう。今のオレは根無し草にすぎない。そして、情報はあるべき所にあって初めて活用される。そうでしょう?」
 武の言葉は、極めて正論だ。
 オルタネイティブ計画が国連主導の極秘計画である以上、そんじょそこらの人間では計画の概要すら知り得ることは無い。
 それにそんな機密事項を外でペラペラと喋っていたら、たちまち消されるだろう。
 つまり、いくら何かを知っていたところで、武一人では動きようがなく、それどころか生活もままならない。夕呼の協力は絶対に必要であり、そのため夕呼に不利になるような事は出来ないのである。
「私たちはある種の利害が一致している……そういうことかしら?」
「そうです。それで先生は手駒がひとつ増える。悪い話ではないと思いますが?」
「そうね……ちょっと待ってちょうだい」
 夕呼はそう言うと、端末に向かって何かを入力する。

 しばらくすると、興味深そうに――『あの笑み』を浮かべていた。

 武はあの笑みを見た瞬間、敗北を悟り、自身が何処で踏み違えたのか考えあぐねていた。
 彼女があの笑みを浮かべた以上、武にとってろくでももない事を仕出かすのがお決まりだった。
 つまり、武が話を有利に進めていた筈の中、何時の間にか夕呼は、逆に武を己が術中に嵌めていたという訳だ。
「たしかに、悪い話じゃないわね」
 夕呼は少し楽しげに言った。
 それによって武の動揺はさらに加速する。
「ど、どうでしょう……買ってくれます、かね……?」
「ええ、いいわ。100%とはいかないまでも、信頼に足る根拠があるのよ……って、何でアンタが動揺してるワケ?」
夕呼は怪訝そうに武の顔を覗き込み、形のいい眉をしかめる。
しかしすぐに興味は失せ、話を武についての今後の処遇に切り換えた。
「それでアンタ、どれくらいの間衛士やってんのかしら?」
夕呼の質問に、武は昔を思い出すかのように答えた。
「ざっと覚えてるのは……10年くらいですかねぇ」
「実戦経験は?」
「実戦経験というより……第5計画発動以後は、ほぼ毎日が出撃でしたね。前回のループではヴァルキリーズに所属してましたし」
「そう。それじゃ、衛士としては一流、という認識でいいことになるわね」
そう言うと夕呼は、武の有効利用について考察を開始する。
彼が言った事が事実ならば、即衛士にして便利にコキ使いたいところだ。しかし、対外的に見たらそれは余りにも不自然であり、無用な弊害を生みかねない。
 それに信頼すると言っても、完全に信頼出来るわけではない。
やはり、様子見を含めて訓練兵辺りが妥当な線だろう。
「それじゃ白銀、アンタは前回同様−−」
「先生。お願いがあります」
夕呼が結論を下そうとしたところで、武が口を挟む。
武には、武の思惑があったのだ。
「……オレがどんな情報を提供してもそれは不鮮明である事に変わりませんし、そんなオレを完全に信用できないのも分かっています。だけど無理を承知でお願いします。
『前の世界』同様、オレを207隊に編入させてください!」
「そういえばアンタ、前回も207隊だったわね。何か未練でもあるの?」
武は自分が考えといることを述べる。
 彼が出来る事は『前の世界』同様、精々情報提供と戦闘ぐらいしか無く、そして戦場に出る以上は、自分に追随できる部隊が必要になること。
 しかし、それ程高い練度の衛士が現在の『この世界』に存在するとは思えず、可能性としては『前の世界』で最後まで白星を譲らなかった神宮司まりもと月詠真耶くらいだが、たった3人で部隊を編成しても得られる戦果は微々たるものであり、所属の違いを考えると編成そのものが不可能。そのため、自前で衛士を一から育てるしかないこと。
 そして才能を考慮すると、やはり207隊が理想の素材であるということ。
「そして……そんな思惑を抜きに、アイツらをもう喪いたくないんです。だったら自分が『前の世界』以上に鍛える以外にありません」
「ふぅん。まるで自分が最強みたいな言い方ね。それともアンタ、自分の言ってる意味が分かってないの?」
 夕呼は愉快そうに口端を吊り上げ、笑顔みたいな表情になる。
武が事実として述べたのだとしても、優秀な手駒を数多く抱える夕呼には、荒唐無稽な自信過剰にしか聞こえない。
彼女にはそれが愉快で、また同時に不愉快だったのだ。
「勿論、意味ぐらい把握してますよ。そして自分は事実を言ったつもりです。『この世界』に自分以上の実力と経験を持ち合わせた衛士がいるとは考えられない」
武がキッパリと言い切ると、表情は変わらないまま夕呼の雰囲気が変化した。
「随分とまぁ見栄を張るわねぇ。だったら試してみましょうか?」
夕呼は試すような口ぶりをしてはいるが、その内心は増長気味のガキに灸を据える気でいた。
武が前のループでA−01に所属していたのなら、当然その実力も知るところだろう。おそらく怖じけづき、この申し出を渋る。そうしたら、207隊入隊をちらつかせればいい。
 それが夕呼の心算だった。
夕呼の口端が、さらに吊り上がる。
しかし、夕呼の思惑はあっさりと外された。
「構いません」
「……え?」
「先生の言う通り、オレを試して下さい。それで気に入らなかったら、煮るなり焼くなり、オレを好きにして構いません」
「へぇ……」
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