二次創作(只今停滞中m(__)m)

□ある世界の終わり・贖罪の戦士
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大切なものは、護り切れなかった

贖罪に身を捧げるも、報われず

ただ、溢れ続ける後悔と自責の海に溺れる

もし叶うなら、俺は−−

        ◇◇◇

「一体、何がどうなってるってんだ!」
指令センターの中は、まるで蜂の巣を突いたように騒然となっていた。
恐怖に怯え、震えた声で絶望的な報告が飛び交う。
「韓国軍司令部との通信が途絶えました!」
「太平洋艦隊の反応もありません!」
「新たに弾頭が大気圏へ突入! 数6!」
「米軍司令部からの応答、依然ありません!」
全世界へ向けた、弾道ミサイルによるものと思われる同時攻撃開始から約1時間。
 殆どの国々が正体不明の攻撃により、いくつもの都市を消失していた。
 唯一国土に直接的な被害を受けていない日本は、米軍司令部が沈黙した事を受け独自の判断で防衛行動を開始。
 それは、米軍によるレーザー迎撃を諦め、地対空ミサイル並びイージス艦発射ミサイルで迎撃。その後、人型汎用戦闘機−−通称ST、並び戦闘機を始めとする通常航空戦力でカバーするという、弾道ミサイル迎撃のプロセスに沿った作戦であった。
 米国のようなレーザー迎撃網を持たない国々は、ほぼ日本と同様の手段で今回の事態に対応。
 そして国土を防衛している間に、弾道ミサイルの発射地点を特定。これを殲滅する。
被害は免れなくとも壊滅的な打撃は避けられるものと考えていた。

 しかし、今回は定説の適用出来ない、特殊なケースだった。
 弾頭は大気圏外、つまり宇宙空間から世界中に向けて撃ち出されていたのである。

 宇宙軍拡をタブーとしてきた全世界は、自らが定めた聖域からの攻撃に防戦一方となった。
 アメリカやロシアは偵察衛星を駆使し、躍起になって弾頭の発射地点を割り出しを急いだが、軌道上の何処にもそれらしき物体は発見できなかった。
 結局、敵対勢力の正体どころかその輪郭さえも掴むことは出来ないまま、段々と各国の防衛力は疲弊している。
 最終的には迎撃すらままならなくなるだろう。
 現段階で、国土が何も無い荒野と化す行程を、黙って見ている事しか出来なくなった国も多い。世界中がそんな事態の中で、未だに日本国内に被害が出ていないのは、奇跡としか言いようがなかった。


 迎撃作戦開始より2673秒後。高度3205メートル

 衛星軌道から天空を切り裂くように撃ち込まれる弾頭。数分前から日本の領土内への落着コースにあるものを虱潰しに迎撃しているが、徐々に手が回らなくなりつつある。今のままの勢いで攻撃が続いた場合、近いうちに国土への落着を赦してしまう事だろう。
 今、ST3機とそれを率いる特別仕様機1機からなる迎撃部隊が、首都圏防空の任務に就いていた。
 弾頭が世界の主要都市に目掛け放たれ、殆どの国が機能停止に追い込まれつつある中で日本の国土が今なお無事であるのは、彼ら特務隊〈ファントムフェノメノン〉の猛者達の尽力によるものが大きい。彼等はたった一個小隊にも関わらず、相当数の弾頭の迎撃に成功していた。
 部隊の先頭に立つ特別仕様機は、鋭角的なフォルムと複雑な三次元曲面を併せ持ち、兵器らしからぬ鮮やかな純白と紺碧に身を纏っている。
 腕には身の丈程もあろう砲身を抱え、背面には翼のようなバインダーを持っている。
その特別仕様機の搭乗者、相模玲司(サガミレイジ)はデータリンクの更新に注意しつつ、司令本部へ秘匿回線を開いていた。
 導き出された事実を確認する為に。
「やはり、あの弾頭は……」
『間違いない、例のニライ・カナイの新型だ』
 通信機からトーンの落ちた声が届く。
 声の主は特務隊の指揮官を務める、榊原元哉(サカキバラ モトヤ)航空少将。
 彼はこの未曾有の攻撃でも混乱に陥る事なく、冷静に事態を判断。そして玲司と同じ事実にたどり着いていた。
「あの時の……」
 玲司の頭の中に、ある数カ月前の出来事の記憶が蘇る。

 以前ニライ・カナイという組織との間で大規模な戦闘があった。
 その時、ニライ・カナイは撤退間際に新型の弾頭を市街地にて起爆。その被害を最小限に抑えるために、共に戦って来た仲間達が犠牲となった。
 その新型弾頭は従来の火薬や核反応などとは異なる、新しい理論の基に開発された超兵器だった。効果範囲は戦術核クラス。そして威力は水爆をも凌駕するという事が判明している。
 現在地球全土に大量にばら撒かれている弾頭は、威力と効果範囲をそのままに、弾頭のサイズを縮小した改良型であると二人は推測していた。
 弾頭はSTの胴体程度の体積しか持たない上、マッハ5以上の速さで大地に突き刺さる。更に強力なECMも搭載しているため、迎撃ミサイルでの撃墜は困難を極めた。

 警告音。

『防空レーダーに感。高度90000、方位011、距離5000、数4。目標をM12、M13、M14、M15に指定。
 うち、M12、M13が日本への直撃コースにある。着弾予測地点は横浜。繰り返す−−』
オペレーターの女性の声がコクピットに響き、データリンクが更新される。
 画面上には攻撃目標である弾頭がM12、M13と明記され、その予測進路を示す赤い矢印はマップ上の横浜に突き刺さる。
 モニターにはさらに、弾頭の効果範囲や推定の破壊力が表示され、数千万の命を散らす最悪のシミュレーションが表示されている。
しかし玲司は画面に映し出されるシミュレーションよりも、着弾予測地点の地名に驚愕した。
「横浜……?!」
彼は司令部からの指示が下る間もなく、主機のパワーレベルを〈MAX〉へ移行しスロットルを最大まで押し込んだ。
背面に装備された、翼を彷彿とさせるバインダーが展開。そこに内蔵されている斥力場推進機構−−TRドライブが最大出力で駆動する。
 機体は蒼い光の粒子を纏い、弾かれたように加速。空を覆う薄暗い雲を一瞬で突き抜け、随伴機の追従を赦さぬ圧倒的な速度で標的に迫っていく。
 高速で地面に向かっているとはいえ、弾頭は依然、超高々度にある。加えてECMも掛かっているため、いくら高性能な複合センサーでも、すぐにはその姿を捉えられない。
 焦燥に胸が焼かれ、玲司は必要以上の力でFBL制御の操縦桿を握り締めてしまう。掌がパイロットスーツの下で汗ばむ。
「リーファ。 M12、M13の着弾予測座標を割り出せ」
《了解。マップに表示します》
制御補助AI〈リーファ〉に、口頭で指示を出す。
リーファが抑揚の無い女性の声で返答すると、作戦区域マップに二つの赤い点がある程度の幅を置いて表示された。
《M12、M13、弾着まで60秒》
「レイレム0よりレイレムズ各機。M2の迎撃体制を取れ。俺はM12の面倒を見る」
玲司は現在地点から近い方の目標を部下に任せ、彼自身は単機で更に数キロ先にある目標に向かう。
 わざわざ単機で迎撃するのは、単に1機で事足りるからという訳ではなく、自分以外の者では3機掛かりでも迎撃が困難であるからである。
「「「了解」」」
味方機がV字型に編隊を組み、M13の弾着地点に進路を変更。同時に玲司はM12の着弾地点に到達する。
『OTG−HQよりレイレムズ! SM−3を発射した。着弾まであと10秒! 効果確認後は独自の判断で迎撃せよ!』
横須賀港に停泊中のイージス艦〈おおつきがた〉から、ミサイル迎撃ミサイルの発射を知らせる通信が入る。同時に、下方から高速のミサイルが天空目掛けて突き抜けていった。
《M12、M13をレーダーに捉えました》
レーダーに弾頭を示す赤い点と、迎撃ミサイルを示す緑の点が表示される。
二つの点は互いに近付き合っているが、空から落ちてくる弾頭に比べ、迎撃ミサイルの方は健気に思えてくるような速度で目標に向かっていく。
互いの相対距離が5000を切った所で、弾頭を中心にレーダーの波形が激しく乱れ出す。
《迎撃ミサイル着弾まで3……2……1……今》
レーダーから迎撃ミサイルの反応が消える。
 しかし、弾頭の反応は消えなかった。
 強力な電磁妨害により迎撃ミサイルの照準が狂ったのだ。
《目標健在。最長射程内》
「レイレム0よりレイレムズ各機! 全兵装使用自由! 石コロ供を掃除しろ!」
「「「了解!」」」
玲司は迎撃命令を出し、自身も照準を直上の空に向ける。
FCSを精密射撃モードに移行。突入殻に覆われた円錐形の物体が最大望遠でスクリーンに投影される。
「夏稀のように出来るかは分からんが……やるしかないな」
玲司は自らの機体が構える火砲の砲身に印された、スミレを模ったエンブレムに眼を遣り、狙撃態勢に入る。
フォワードセンサーが捉えた気候条件や目標との相対速度を考慮し、狙いを定める。玲司にも並大抵以上の狙撃技能はあるが、夏稀ほどの神業は不可能。狙撃に関してはリーファも大したデータが無く、ある程度は感に頼るしかない。
 発砲。
強力な磁場中で加速された120ミリの徹甲榴弾が、虹色の閃光を撒き散らしながら射出される。
瞬く間もなく目標の存在する高度まで到達するが、ほんの数メートル照準がズレていた。徹甲榴弾は目標に食らい付かず、虚空を過ぎ去っていく。
2発目を発砲。
しかし1発目と同じく、何も無い空を切り裂くに終わる。
《地表到達まで、あと37秒。着弾すれば横浜は瓦礫の荒野です。ヤバいってやつです》
「……うるさい」
もう一度、各種データを確認する。
深呼吸をして、心を落ち着ける。
(大切な人は誰一人として守れなかったが、せめてその生きた証だけは−−)
スクリーンの中で、ターゲット・シンボルとレティクルが重なり、小気味好い小さなアラーム音が鳴る。
 3発目のトリガーが引かれ、砲口が鋭い光をほとばしらせ、砲弾を吐き出す。
《今度こそ確実です》
リーファの宣言通り、砲弾は降下中の目標のど真ん中に命中した。
 徹甲榴弾が弾頭の装甲を突き破り、その奥深くに飛び込み、爆発する。
やや遅れて、遠い爆発音をマイクが拾った。
《M12の撃墜を確認。ぎりぎりでしたね》
「全くだな」
《でもこれで12発目の撃墜です。この調子で頑張りましょう》
「…………そうだな」
 玲司は即答出来なかった。
今までの12発、易々と撃墜できたものなど1発たりとて無かったからだ。先程から、なんとか辛勝を拾っている状態である。まして補給を行える程の余裕も無かったため、残弾も残り少ない。主兵装である徹甲榴弾は、あと2発を残すのみだ。
確実に追い込まれている。
「ATDVSが必要になるかもな」
玲司はこの機体に搭載されている、ある特殊な機材を使用する必要を感じていた。
《妄想にさえも頼りたい気分ですか?》
 その特殊機材の最大の特徴を踏まえ、リーファは皮肉を言う。AIが皮肉を言うなど有り得ないが、リーファに関しては特例だった。
「頼るさ。頼る方が得なら」
規格外によく喋るAIと他愛ない戯れ事やり取りしていると、突如スクリーンに警告ウィンドが立ち上がる。
 M13が迎撃限界高度に接近している事を知らせるものだった。
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