to the beginning

□open your eyes
1ページ/1ページ





いつ、気が狂うかと思っていた。
今か、今かと、そのときを恐れていた。
いつだっただろう。
異変に気付いてしまったのは。
いつだっただろう。
世界に取り残されてしまったのは。


いいや、


取り残されたのは世界のほうで、僕は切り離されたというだけだ。
いつだっただろう?
知っていた。気づいていた。
それは僕が、カントーを制覇した頃。
その頂きに立った頃。



世界が、呼吸を、止めた。



その戦慄を覚えている。
その恐怖を覚えている。

その絶望をわすれない。

何処へ言っても、誰に会っても、時計の針は、動かない。
同じ場所にいる同じ人。
何度話しかけても返ってくる言葉は一字一句変わらない。
耐えきれなくなり、僕は、逃げるように"人が誰もいない場所"に駆けた。
白い雪に覆われた極寒のせかいで、僕は、ただひとり、うずくまるようにそこに居た。
僕と同じ時間の流れにいるのはポケモンだけで、そこには誰もいなくて、
いつしか、いつ気が狂うだろうと、そればかり考えていた。


きっともう気が触れているのだと、どこかで理解っていたのに。


それなのに。


「やっと……………」


その景色をわすれない。

その色彩をわすれない。

その瞬間、全ての温度を思い出したことを、わすれない。

白銀の世界を切り裂くように舞い降りた赤い幻。
白く明けていく空にただよう炎のように鮮やかに、なによりも鮮やかに、ただどうしようもなく鮮烈に。
きみはぼくを、永久に閉ざされた凍土まで迎えに来たのだ。

雪と見紛う真っ白な姿の中で、赤い瞳だけが煌めいて───




「見つけまし、た………!!」




これは、きみとぼくの物語。
いつかへと続く、いつか繋がる物語。


はじまりへ至る、きみとぼくが生きた日々の全て。




.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ