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一体誰を見たらああなるのか。
あたしも優一も、あんっな悪役面したことないと思うんだけど。

雷門入学1日目、しっかりばっちりお勤めをした京介は帰宅するなり清々しいまでのドヤ顔を見せてくれた。


「……ねーさんは悲しいよ京介…!お前いつからあんな悪役全開キャラになったんだ!」

「今日から」


あまりのハマりっぷりに、本部のモニター見ながら絶句してたとか死んでも言えない。
一瞬本気で、京介がサッカーを忘れたのかと思って。
雷門イレブンから見えない位置でキツく握られていた拳に気付かなかったら、完全にショックを受けていたと思う。


「…ごめんなぁ、京介。つらい、よな」

「それはアンタも同じだろ」

「あたしは……うん…あたしよりお前たちのほうがずっと辛いだろ。特に京介は、あたしといたためになまじ本当のサッカーを知ってるから、余計に」

「…………」


登校日初日から、何言ってんだろ。
これじゃ先が思いやられる…あたしの。
なるべく早く解放してやるから、だから、ごめん。


「憎いか憎くないか聞かれたら、憎い」

「…うん」

「だけどそれはアンタじゃなくて、社会全体がだ」

「…」

「管理が必要なサッカーも、サッカーで全てが決まる価値観も、…おかしいだろ」


そうだな、おかしい。


「けど、もう覆すことは出来ない。俺達は管理されたサッカーをするしかない。…そうだろ、ねえさん」


その問いかけに、頷くことは出来なかった。
京介の言葉は、まるで自分に言い聞かせるように紡がれている。
自分を納得させるように。
あたしを納得させるように。


「半分は素だ。軽々しくサッカーサッカー言ってる奴を見ると、…心底腹が立つ」

「…松風天馬?」

「呑気なこと言いやがって、何も知らないくせに。俺や、ねえさんが、どんな思いで…っ」


どんな思いで、なんて、ごめん、京介。
あたしが本当はどんな思いでいるかなんて知ったら、お前はきっと、笑うんだろうな。


「…とにかく、兄さんのためにも俺はフィフスに従う。後悔はするなとアンタが言ったんだろ」

「………そうだったな」


何かを成すには、誰かの犠牲がつきものだ。
きっとあたし達が今しようとしていることはとてつもなく大きくて、そのぶん犠牲も多い。
だけどどうか、虫のいい話かもしれないけれど、どうか、最後にはわかって欲しい。
ごめんなさい、
ごめんなさい。
京介、お願い、あの人を助けてあげて。


「神童にはしっかり揺さぶりをかけておく。あいつが弱ってる限り、雷門は絶対に反乱なんか起こさない」

「ああ…」


そう、歯車を回すスイッチは神童拓人だ。
上手く横槍を入れて、神童からひっくり返していくつもりだったけど…
どうやら、あたしが手をくだすまでもないみたいだ。

松風天馬。

もうすぐ円堂が雷門に来るという、このタイミングで。
ほら、サッカーの神様はあなたを見捨てていなかった。

きっとあの子ひとりいることで、雷門は変われる。
松風天馬は"そういう"子だ。
見ればわかる。昔の円堂に少なからず似ている。…あたしにも。
この先、間違いなくあの子が革命の枢軸を担うことになる。
そこに円堂が加われば、もう向かうところ敵無しだ。
あの子のおかげで、京介が嫌な思いをする回数はうんと減る。


「そんなことよりねえさん、飯」

「はいはい…あ、お弁当箱流しに出しとけよ」

「もう出した」

「優等生じゃん」

「黙れ」


さて、可愛い可愛い京介にはさっさと飯食わせて風呂入れて寝てもらいますか。
今夜は聖帝のご自宅に行かなくちゃならないからな。


ホーリーロードの地区予選、雷門が革命を起こしていくためにどの学校を当てていくか話し合う予定がある。

そう、

剣城京介。
お前がフィフスを裏切るための道筋を、あたしが整えてきてやるから。



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