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なんだかんだ言って、結局自宅というのは落ち着くものだ。


「おはよう京介」

「…………はよ」

「何だよその顔」

「眼鏡やめろ」


やっと帰ってきた自宅だというのに、朝から思い切り気を張ってしまった。
別にゴッドエデンに"先生"がいたわけでは無いが、ねえさんが眼鏡をかけたその姿は俺にしてみれば"先生"なわけで、"先生"はフィフスの人間なわけで、つまりゴッドエデンでのあれやこれを思い出してしまったわけだ。


「わり。かけっぱなしだった」

「徹夜?」

「してない」


嘘だな。
ねえさんが家で"先生"でいることはない。
ここにそれを持ち込むのがあまり好きじゃないのもわかってる。
大方、帰ってきた俺を見て何か思うところがあったんだろう。


本部で初めてこの人を見たときの衝撃は今も覚えている。
心の底からフィフスのやり方に賛同しているわけではないのだから、信頼していた人があんなところにいたらそりゃあショックを受ける。
だけどあの人の仕事を知って、どうしてフィフスにいるのか"わかって"しまった。
それなりに長く一緒にいたのだから、言葉などなくともわかる。
本人には絶対言わないが、ある意味では"先生"がいるからこそ俺は安心してシードをしていられるのだ。


「ていうか京介、まさかとは思うがお前そのカッコで学校行くんじゃないだろうな」

「行く」

「ぶはっ!最っ高!」


にたり、と、悪役さながらな顔で言うねえさんに、同じような表情で答えてやると、盛大な爆笑が返ってきた。
学ランを"こういう"ふうに改造するのに一番協力した人間が何を言っているのやら。
大体にして、赤いTシャツはこの人の発案だ。


「じゃあご飯食べてとっとと登校してもらうかな!何事もはじめが肝心だし。あ、お弁当どうする?」

「あー…作った?」

「うん」

「持ってく」

「ぶふっ」

「……笑うな」


どうせ誰と食べるわけではないし、別に拒む理由はない。
人に見られるとなるとイメージの問題でちょっと悩むが、今日くらい構わないだろう。


「そっかそっか。そりゃあ見るからに不良でしかもシードの子がお弁当持参してたら可愛いだけだよなぁ」

「うるせぇ!」

「んじゃこれな」

「………ん」


貫徹で仕事をこなしているくせに、よくもまぁ弁当を作る気力があったものだ。朝食も。
ねえさんは普通に寝ているときと徹夜をしたときに差がない。
家事は絶対にいつもどおりこなしてある。
正直、俺ももう中学生になるのだし言われれば朝食の支度くらいしてやれるのだが、俺が早く起きてみようがねえさんはそういう俺の行動全てを予測していたかのように完璧に支度を終えているものだからぐうの音も出ない。
それならば、大人しく時間まで寝ていたほうがねえさんに余計な早起きをさせなくて済むという、結局俺が楽できる道しか残らないのだ。


「、」


ふと調理台の上を見ると、赤い包みの弁当がもうひとつ置かれていた。


「それ、」

「うん?ああ、あたしのぶん。ついでにな」

「フィフスセクターの幹部が弁当持参かよ」

「どうせ誰も見てねーし」


それはそうだろうが。
それにしても、育ち盛りを自負している俺とたいして大きさの変わらない弁当箱とは、毎食よく食べるのは相変わらずか。これで何で身長に恵まれなかったのか不思議でならない。


「さぁて…剣城君」

「はい」

「今日から雷門に通うわけだけど…、あなたのお眼鏡にかなう子はいたかしら」

「まぁ、名門だけあってみんな実力はありますよ。ただし何人かは練習に身が入りきってませんね。俺なら余裕でしょう」

「おい京介」

「ンだよ」

「あたしは気になるやつはいたかってきいてんの!雷門の実力なんてなぁ、お前が春休みの間練習偵察しに行くずっと前から分析済みだバカ!」


わざとらしく"先生"の口振りで問いかけてくるものだから、ひねくれて答えてやるとすぐに頬を膨らませる。
俺より10歳は年上のこの人は、こういう、ガキっぽいところを今なお失っていない。
有り体に言ってしまえば物凄く単純だ。


「神童拓人」

「へぇ、やっぱ神童か」

「あの人はずば抜けてる。けどメンタルは最弱だ。いずれにせよ、俺なら余裕だな」

「期待してるわ、剣城君。聖帝にあなたを推したのは私なんだから、恥をかかせないでちょうだいね」

「はい先生」


よく言う。
俺を推したのは、自分の実績が欲しいからじゃなくて俺をゴッドエデンから連れ戻すためだったくせに。

勿論だ。
アンタの為に、どんな悪役もこなしてやる。




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