With Determined Passion
□REVO.3
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扉の向こうに人の気配がないか十二分に注意を払い、静まり返っているのを確認して私はじいちゃん──もとい、葉明さまに向き直った。
「すみません、挙動不審で」
「なに気にすることはない。して…」
「ええ。私のシャーマンとしての能力をお話しておこうかと思いまして」
「葉には聞かれたくないのか?」
「んー…聞いて不利になることはない…というか葉にとっては有益かもわかりませんが…」
頭の中で式神の使役とオーバーソウルが結びついてないだけであって、実は葉は現時点でオーバーソウルの"やり方"は知っている。
「それO.Sっていうんだよー」と私が教えるのは簡単なんだけど、それだと不具合が出るというか。
例の坊ちゃまと相まみえたときにO.S会得済みじゃあ話にならない。圧倒してしまっては意味がない。葉が成長しない。
来るべきときに知ればいい。
「今の時点で"オーバーソウル"という名称とその行為を覚えてしまうと、葉の成長の妨げになる気がするんですよねぇ」
「ほほう」
「ちゃんと必要なときに出来るようになるんだし、危ないこともないし、聞かれないほうが嬉しいなぁ」
「つまりお前さんはO.Sを使えると」
「あ、そこに話転がすんですね。ええ、出来ますよ──と言っても、持ち霊がいないんですけど」
「持ち霊に関しては今生まれたばかりでは仕方ないじゃろうて。以前いた世界でもシャーマンだったのか」
「いや一般人でした。ひとより少し…陰陽道や神道に詳しい程度で。だから実践はしたことないんですけど、理屈はわかってますし力もあるので感覚さえ掴めば出来ますよ」
「ほう、力がある根拠は?」
「んー、こちらに来るにあたっての特典といいますか。最強とはいいませんが、私の巫力凄いんですよ」
もともとシャーマンとして通用するほどの霊感があるわけではなかったので、こちらに生まれるにあたっての必要最低限の装備としていただいたものだ。
「なんせ私の巫力の源は葉への愛。私が一番自信を持って揺るがないと言えるものですから」
「……何故そうも葉にこだわるか、聞いても良いか?」
「ええ勿論。先ほど言った通り、私はこの先の葉を知っている。全て見ていました。そして…」
葉が紡ぐ言葉も、些細な行動も、その全てが私の生きる意味へと変わっていく。
闇雲ではない「なんとかなる」という言葉も。
揺るがない心も。
揺らぐ想いも。
立ち向かう運命も。
葉の生きる姿こそが私の探す理由に違いなく、麻倉葉こそが私のアイデンティティだ。
だからわかっちゃったんだよね。
完全版で初めて葉が口にしたその言葉を私はずっと待っていたのかも知れない。
気づいていたのかも知れない。知っていた。わかっていた。
人を嫌う人ほど葉に惹かれてしまうこと。
「私の命は何度も葉の言葉に、行動に、救われてきた。…愛しています、心の底から、本当に。私の体も、心も、魂も、全て葉なくしては成り立たない。生き方を教えてくれたんです。麻倉葉が私の生きる意味で、全てで…ううん、命そのもの」
葉は希望を見せてくれる。
人を嫌っていながら、それでも彼らを信じ、はねのけない強さ。
葉がいてくれなければ、私は世界の全てに絶望していた。
「だからここに来れた。選ばれて来たんです。候補は他にも沢山いた。だけど私のこの気持ちが、いちばん強かった…」
「…そうか。あの子は、強い子になるか」
「何言ってるんです、現時点で強い子でしょう?」
「ふ…そうじゃな」
この人が人であったからこそ、葉は生まれることが出来た。
感謝しなきゃだなぁ。
「陰陽道は自己流か?」
「あ、ええ、自己流もなにも知識だけっていうか…何せ生まれたばかりなんで。神道に偏ってるかもしれませんし」
「ふむ……明日からは東京だからのう…出雲にいれば教えてやれんこともないが」
「うぐっ…でも葉に来るだろ?って言われちゃったから無理…!いずれここに来る機会があると思うんでそのときにお願いします…!」
作中で葉が初めて挫折を覚えるエピソードだけど。
ヨミの穴の修行に葉が行ってる間は私暇だろうし。
「式神使役くらいなら葉に教えて貰えるだろうし…」
「ほっほ、そうか」
「な、何ですかその顔は」
(悦)っていう字が背景に見える。
じいちゃん…もとい葉明さまも大概読めない方だなぁ。
さて。
おにいちゃんの話題をふっかけようかなぁと思ってたけど、わざわざこの空気を壊すこともない。
葉明さまのことだから、私が知ってるのわかってるだろうし。
また来るべきときにでも。
「じゃ、葉のとこ戻ります」
「うむ。…愛」
…おっと。
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