あなた
□Very Berry Happy Day!
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夏がもう来たようだとかわうそは思った。かき氷を食べようと言い出したのは半袖姿が眩しい猫娘。
かわうそには遠い人間の町、バイト先から持ち帰られた機械はぎらりと鈍く光っていた。
灰色になりかけた銀の先端には黒いハンドルが付いている。
「オイラにも回させてくれよ」
かわうそがねだると猫娘はふと瞳を和ませた。彼女はたまにひどく大人びた顔をする。彼はその微笑みを了承として受け取り、黒いハンドルを回すが氷も置かれていない機械は空振りするだけ。
くるくる回るハンドルに微かな手応えを感じた時、かわうそは海の香が辺りに満ちたのを見た。
「何やってんだい。一番最初に作るのはアタイの苺練乳だよ」
波立つ珍しい色の髪を何かに例えるには言葉が足りない。ただアマビエの苺というリクエストが唯一そのイメージに重なって、妙にくすぐったいような気になる。
わかった。
短く一言返して頬に溜まってしまった夏の陽射しを振り払い、氷を削る。
「そんなに張り切らなくてもいいのにぃ」
(さっきとは違う含みの有る笑みを浮かべる猫娘が憎たらしい)
雪ではない白が器に落ちて山をなし、頂はシロップにへこむ。赤い小山に練乳をかけるとほんのり優しい色になった。
「……おおー」
「一人で唸るんじゃないよ。怪しいね」
(なあなあ、この色さあ)
「それにそっくりだよな」
勢いよく差し出された苺練乳はびしゃりと桃の髪にふりかかる。
(Very Berry Happy Day!)
2009.0906