あなた
□夏の滴
1ページ/1ページ
ひやりと舌を濡らす氷を心地良いと感じられるのは、自らと他人の温もりをよく知っているからだと猫娘は思った。
暑いからと半袖を着てきたのだが、大して変わらず汗は額に滲む。
きらきらと機械から器に落ちてきた氷のかけら達はシロップに染められ、もう半分ジュースになりかけていた。
硝子の皿を持ち上げて覗いてみると自分の足がある。ブルーハワイの向こうに揺れる肌は濃い青。
(思い出すのは)
「(暑いだろうなあ)」
着込まれた着物には爽やかな風の入り込む隙はなさそうだなんて思ったりすれば、そんな彼はどうやって涼を楽しむのかと考えたりして。
(あの鋭い目はいつも澄んでいて、夏もそれはきっと変わらない)
「……遊びにこない……よね」
もし気まぐれでも(彼に使う場合、気まぐれという表現はとってつけたような奇跡を示していそうな感じだ)顔を見せてくれたなら、かき氷を振る舞おうと決めてブルーハワイの最後の一滴を掬った。
青が舌を凍らせる。とろけていく冷たさ。たまに見せてくれるその優しさがそれに重なって懐かしかった。
2009.0906