あなた
□小朶
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三つを数えた少女の瞳はたんぽぽに向けられていた。髪に結ばれているリボンと同じ色をしている、ただそれだけの理由でである。
風に揺れる花が左右に体をふり、踊っているようだねと例えたのは少女の祖母だった。たんぽぽの綿毛が自分の手を引く皺だらけの手の大人の白髪のようだと彼女が思うのは、あと何日か先のことになる。
「たんぽぽは初めて見るの?」
うん、と小さな頭がリボンと一緒に頷く。母親に着せられたワンピースの裾を握っていた手がたんぽぽに伸ばされる。掌で感触を確かめて彼女は祖母に振り向いた。
「リボンいろとおなじ」
「そうねえ。何色かわかる?」
「んーとねえ、これはあ」
晩春は恥じらひて
(まるでたんぽぽに恋をしたように)
「やまぶき」
「あら。難しい名前を知ってるのね」
「パパとわたしがだいすきだよ。でもわたしのほうがだいすき」
だいすき。少女は花に囁いた。花ではない、懐かしい何かを思いながら。
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