あなた
□ただひたすら好き
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「……」
梅が咲いているのを見つけて見入る。赤を纏う花の後に開けた視界の色は透過されたように澄んでいた。
春はいい、と思うのは心までこの木漏れ日が染み込んでくるからだ。
でも特別胸を占める温もりをただ春だからという理由で片付けるのは間違っている。
(梅は一人で)
でも桜は二人で見ると話したのを思い出して『今日も頑張ろう』と前を向いた。お坊さんは気まぐれで消えては現れるような人だけれど私を強く在らせてくれる、それだけで十分だ。
(強さも弱さも全部が自分の一部だと分かったのはついこの前)
吹き抜ける風。
南から旅をしてきたのだろうか、とても柔らかな肌触りに身を委ねる。
髪を揺らすそれに彼の手を思い出しても懐かしむというよりは純粋にあの優しい仕種が好きと感じるだけになれた。
「(ちゃんとご飯食べてるのかな)」
(今南にいるのなら貴方がいる場所からやってきたこの風を抱きしめよう)
「(また怪我をしているんじゃないかな)」
(北にいるなら私を通り過ぎた風が梅の甘い匂いを届けるようにと祈ろう)
どうなるかわからない明日も、流されていく昨日も惜しくない。自分は幸せだと言い切れるから。
不安で仕方ない時も、嫉妬してしまうこともあるけども信じられなくなったことはない。次に会える日がいつか分からないだけで切れるような信頼でないのが嬉しいと言ったらお坊さんはきっと照れる。
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