あなた

□淡紅
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「どういった風の吹き回しじゃ」


呼子が知らないよと少し膨れて目玉の親父に返すと鬼太郎は随分焦っていましたねと父が浸かる風呂に湯を足して指で温度を確かめた。



「お茶でも飲む?」


「うん」


猫娘と飲むはずだった茶を呼子に出すと彼は外が俄かに騒がしくなったのに気付く。湯飲みを置いて下を窓から眺めてみれば、先程出て行ったはずの蒼坊主が右と左から何やら喧々囂々とまくし立てられて立ちすくんでしまっていた。


「(何でろくろ首まで)」


女三人集まれば等想像するのも怖いくらいの二人が一人に集中攻撃。広くて頼りがいがあるはずの兄の背中が今日は小さく見える。


触らぬ神に祟りなしと鬼太郎が目を背けると必死な蒼坊主の声が響いて来た。



「だーかーらー違うんだって。ただ普段世話になったり、話したりする奴になんかやりたいだけで」



「でも女の子なんでしょ。誰? 教えて、誰にも言わないから! ね、ね、誰?」


「浮いた噂一つなかったのに、案外やるのね」


「………違うって………」


どんなに否定しても彼女達は自分が面白いと思う形に話を理解してしまっていて、曲がりに曲がった話の腰をもとに戻すのは不可能らしい。


悟った蒼坊主は最終的にはうんとはいを繰り返して二人に連れられて横丁に入った。


当たり前だけれども見渡しても人はいない。在るのはただ懐かしい雰囲気と見慣れた仲間の顔だった。ふ、と彼女がここに居たら等と考えて、すぐに止める。


離れると笑顔しか思い出せなくて、もし今側に居たならと想像するとその心に宿った顔さえも真っ当な人間なら当たり前の恐怖に歪ませてしまう。



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