あなた

□あかり
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松明が照らし出す冬の故郷に彼女が訪れたのはもう何週間も前の事である。


よく晴れた空の下で見た笑顔から始まった想いは優しい雪の冷気に包まれてそっと凍り、今も彼の心の中で光を受けて輝いていた。


恋情として燃やすには頼りない、友情として捧げるには熱いそれに黒鴉自身気付いてはいる。気付いてもどうする事もできないまま、たまに猫娘を想っては自分の心から瞳を背けた。


忘れられもしないし、けれども気持ちを育むには彼女との接点は少な過ぎる。


会いたくて、話がしたくてもそのきっかけがない。非常時でもないと飛騨から抜け出して自分が横丁に向かうのはおかしいだろうとそこまで考えて黒鴉は珍しく酒を口に運んだ。


(月が照らし出す寝室の一角に座してひとり。不謹慎にもまた何か起こり、戦力として呼ばれはしないかなどと)


「(その存在と心をお守りするだけのために在りたいと願う)」


凍る愛しさも迷いもいずれは小川のようにひたむきに流れてたどり着く場所を探す。その全てを受容した時、


「…私は自分を捨てるのか、それとも新たな自分に出会うのか」



(貴女が与えてくれるものなら喪失さえも価値がある)

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