あなた

□やわらかな刃
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(夜明けというものを初めて見たのはもう何年前になるのだろうか。山の向こうが白から薄桃へ、そして曙に変化していくのは生まれ故郷である地底では見れない光景だった)


自身の中にある人の要素がそれを懐かしいと思わせる。


幼い頃に花を手折って、息を弾ませたまま井戸に飛び込んでいたことは今でも鮮明に覚えているのだが最も大事なあることが思い出せない。


もう昔色とりどりの花が妍を競っていた長者の庭は無くて、馴染んだ木はもう影も形もなかった。仕方なく、近くで見つけた民家の片隅にあったものを拝借して帰る。


(地獄へ帰る道中で十になるかならないかの子供と出くわした。少女だった。興味半分でついてこようとしたその子供にあと何十年もすれば会えると声をかけると途端泣き出す。怖かったのだろうかとこれで菓子でも買いなさいと幾分か古い銭をやると赤くなった目が珍しそうに金を見た)


「(私にもこれくらいの時があったのだ)」


鳥部や髑髏町と呼ばれていたこの辻の辺りはもう違う名前で呼ばれているらしい。


(時代はこうも流れているのに、私もあの方もどうしてこうも変わりなく)


別れた子供も、あっという間に老いてまた私と再会するだろう。果たしてそれが宋帝王の部下としての自分となのか、裏切りの逆臣なのかは分かりはしないが。


こうして罪を重ねる日々の中でも私は人を裁く。己の業が日に日に重さを増していくのを感じながら。





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