あなた
□瞬息を渡り
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話すのは本当に他愛ないことだった。たまにじんと疼く胸は相変わらずでその度に無理に笑う。
「髪を切りてえんだ」
「髪を?」
「昔は短くしてた時もあったんだぜ。いつからだろうな、面倒になってよ」
気がついたら切る。
邪魔にさえならなければいてまでも伸ばしていたのにと蒼坊主が言うと一反木綿は空を見上げた。
「時間はおじか。おてしきゆっくりかと思えば、わしらを置いてく程速い」
彼は噛み締めて友にそう囁く。自分に言い聞かせているような風でもあった。
「なあ、一反木綿」
「何です」
「もしもの話なんだが、」
(あんたが当たり前に知っていたそれを、今になってやっと本当の意味で分かった馬鹿がいたらどうする)
大きな流れに飲まれて漂うのが生だった。何も難しいことはない。全部を委ねていればいいのだ。髪を切るのも、見知らぬ誰かの名前も知らず生きていくのも小さなことで。
「やっけたね。とりあえず笑いますばい」
「笑ってくれ」
(刹那を愛しただなんて、冗談にもならねえ)
「(髪が少しだけ伸びる。たったそれだけの間にどれだけ俺はあんたを思うんだろうな)」
2008.0606