X・sub story

□俺とアイツの夏祭り
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ダメよ」
 ハナコの声も耳にない入らないほどのはしゃぎようでサトシはシゲルとともに家を出ると、夏祭りの行われている大通りへと出ていった。 「早く、早く!」
 サトシは履き慣れない下駄を気にすることもなく早足で、シゲルの浴衣の袖を引っ張った。
「まだ始まったばかりだろう。あせってると……」
 転ぶぞ、と言いかけたシゲルの目の前でサトシが転んだ。
 一番先を走っていたピカチュウがあわててサトシのもとに戻ってきた。
「言う前に転ぶんだからな、まったく」
 シゲルはサトシに手を差し出した。
「ほら、立てるか?」
「うん……」
 サトシはシゲルに手を借りて立ち上がったが、浴衣の胸元を気にしている。
「なんか変だ」
 転んだ拍子に胸元が乱れてしまったらしい。不器用そうに直そうとするサトシを見ていられず、シゲルはつい手を出してしまった。 「君がすると余計おかしくなるからね」
「なんだよ、それ!」
「僕は一人で着られる。サトシは?」
「……母さんに着せてもらった」
「ほらね」
 サトシは諦めてシゲルに浴衣の乱れを直してもらった。
「いいよ、行こう」
「サンキュ」
 小声でお礼を言って、サトシはちょっと赤くなった。
(シゲルのやつ、妙に優しいじゃん)

 綿菓子にお好み焼き、焼きそば、リンゴ飴、かき氷――目にも鮮やか、匂いも食欲をそそる。
 もちろんお面屋に、金魚すくい、ヨーヨー釣り、スピード籤、射的、お祭りにはつきものの店が、行き交う祭り客を引き寄せようと、色と匂い、呼び声で気を引く。 「サトシ!」
 きょろきょろと辺りを見まわ続けして、ソフトクリームを持った少女とぶつかりかけたサトシの腕を引っ張ってシゲルはため息をついた。 「前も見ろよ。せっかくの浴衣を汚すことになるぞ」
「――わかってるよ」
 シゲルの言葉も耳に入らずサトシは、夜店を眺めるのに夢中だ。
「な、な、シゲル。ヨーヨー釣りやろうぜ」
 シゲルの返事も聞かず、ヨーヨー釣りの店に走っていく。シゲルはあわてて後を追いかける。
 シゲルとサトシとピカチュウ、三人分のヨーヨーを手にし、今度は金魚釣り。
 サトシの頭にはいつのまにかニョロモのお面、シゲルの頭にもサンダースのお面がかぶられている。
「あっ! あっ! 破れちゃった……」
「――しょうがないな」
 一匹もすくい上げられず、最中を破ってしまったサトシの横にシゲルがしゃがむ。
「一回ね」
 代金を渡し、椀と最中を手にしたシゲルは、あっという間に椀に入りきらないほどの金魚をすくってしまった。
「すっげえ!」
「参ったなあ」
 店番の男が頭を掻いた。 「上手いねえ、あんた。商売あがったりだ」
「金魚はいらないよ――あ、いや、こいつの分だけ三匹くらいもらえればいい」
「お、話が分かるね。それじゃあ、四匹入れとくよ」
 店番の男は、袋に金魚を四匹入れると素早く口を締め、サトシに渡した。
「いい友だち持ってるな」
 サトシは金魚を受け取って、シゲルの後を追う。
「シゲル!」
「ん?」
 腕を組んで振り返ったシゲルは、むっとした顔のサトシに眉をひそめた。
「どうした?」
「これ……シゲルのじゃん」
 サトシは金魚をシゲルに押しつけようとした。
「いらない。サトシにやるよ」
「お前が取ったんだろ!」
「サトシのお母さんへのおみやげにしろよ。僕が飼ってもすぐに死なせるかもしれないしな」
「変なやつ……」
 サトシはつぶやいてぷいと横を向いた。 と、足下を見回す。
「ピカチュウ?」
 足下にいたはずのピカチュウがいない。
「あれ? どこに行ったんだろ」
「人が多かったからはぐれたんだな」
 シゲルは肩をすくめて、もと来た道を引き返し始めた。
「ほら、行くぞ」
「う、うん」
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