本編
□小金梅笹【光を求める】
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「きゃー!遅れるー!!影月君もうすぐよ。頑張って!」
「僕は大丈夫です、秀麗さん」
垣根や植え込みを無視して爆走する二人の少年少女。
新人を表す白服も真新しい秀麗と影月である。
「ったく!よくも間違った時間を教えて〜〜!!!」
「嫌われてますねー僕たち」
そう、官吏となって初めて礼部へ向かう秀麗と影月は間違った時間を知らされて遅刻寸前であった。
「でも、あの武官さんに近道を教えてもらえて良かったですねぇ」
「ほんとよ!後でお礼言わなきゃ!」
「でも…あの人、抜き身の剣を見てニヤニヤしてましたね」
「・・・・・・」
「耳とか口元のジャラジャラした飾りって、穴開けて付けるんですよね」
「・・・・・・・・・」
「出遭った時、いきなり試し斬りしていい?って真剣に聞いてきましたよ?」
「・・・・・・・・・・・・と、とにかく、早く礼部へ行くわよ!」
「あ、待ってください!」
かくして、なんとか遅刻をせずに礼部に辿り着いた二人。
しかし、榜眼と四位の少年少女が気にくわない者がいるなら、状元と五位の少年少女も当然標的にされていて……
蔡礼部尚書が広間に入り、教導官として魯官吏を紹介し、室を辞したまさにその瞬間。
まるで尚書との入れ替わりを狙っていたかのように、二人の人間が入ってきた。
悪びれた様子もなく、余裕綽々。
しかも入ってきた早々こんな会話を繰り広げているのだから、いっそ堂々たると言っても差支えないかもしれない。
こんな会話・・・↓
「遅れました」
「ここらへん来た事ないから分かんないんだよね〜人に聞いたら反対方向だし」
「あ、オレ正しい道分かってたけど」
「櫻!なんで教えてくんなかったの!?あたし、櫻の目の前でどっちかなぁーって悩んでたでしょ!?」
「これぐらいが、丁度いい“按配”だと思ったから。出遭ったら何か言っちゃいそうだったし」
「まぁ…確かに丁度良かったけど……」
「それに道ぐらい、鮮視だって人のを『視れ』ば良かったのに」
「だって――」
「貴様らーーーーー!!!!!」
魯官吏の怒声が新進士の耳を打った。
「国試が良かったからといって調子に乗るな!!炎鮮視、炎櫻!
・・・それに全員に言っておく!
官吏をなめるな!!」
緊張でピンッと張っていた背筋が、更に反り返るほど硬直する新進士たち。
初々しいと言えば初々しいが、見苦しいと言えば見苦しくもある。
しかし、そんな周囲をよそに鮮視と櫻は口こそ噤んだものの、余裕の表情に変わりはない。
この程度で動揺するのは頼りないと思うが、まったく動じていないのも困りものだ。
誰にも御しえず、暴走されてしまうのは御免こうむる。
あの吏部尚書でさえ、邵可という歯止めがあるというのに・・・
魯官吏はそんな内心の思いをおくびにも出さず、挨拶もそこそこに早速各人の仕事を与えていった。
『あたしたち、ボウソウなんてしないのに』
鮮視の唇が音なく、そう云ったのを魯官吏は気付かなかった。