Fiat Lux!
□Fiat Lux!【同時に闇が生まれた】
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「戸部尚書、一日しかないが炎竜王殿のもとへ赴くのに手ぶらではならん。できる限りの財宝の準備を」
「リオウ長官、羽羽殿、余の後を継ぐ者の選別を。明日以降で構わぬが、内乱などしている暇はないのだから慎重に選んでくれ」
「次の王が決まるまでは鄭宰相が中継ぎを」
「できうる限りの引き継ぎはするつもりだが、なにぶん一日だ。必要な書類のみ迅速に持ってくるように」
「誰か後宮から女官を呼び出せ。余の身仕度は政務の片手間に行うからな。………簪は必要ないと伝えろ」
矢継ぎ早に指示を出していく劉輝。
おおよその命令をし終えると、引き継ぎのため執務室に向かおうとする。
茫然とする楸瑛と絳攸を、劉輝は見れなかった。
足速に扉へと向かうが、当の扉は粉々に砕かれて見る影もない。
ただ小さな破片だけが辺りに転がっている。
劉輝は一瞬俯いて小さく自嘲すると、誰にともなく命じた。
「ここもきちんと片付けておけ。新しい扉を作らせるのだ」
そうして劉輝が出ていくと、凍り付いていた広間がようやく動き出す。
この時、誰も王の命に異を唱える者はいない。
どうしようもないと分かっているのだ。
それに王ならば『物の道理がよく分かり、竜王の気に障らない者』にもピッタリだろう。
もはや彼等にできることは、王の命令を忠実にこなすことだけであった。
※ ※
あっという間に貴重な半日が過ぎさった。
もう夜半も過ぎている。
しかし王宮一辺は松明が盛大に焚かれ、昼のように官吏たちが走り回る。
一番大変だったのは戸部だろう。
王家の娘が貴族のもとへ降嫁するのとは訳が違う。
王自らが妖魔の王のもとに従うのだ。
品がなくても量が少な過ぎても、国の名誉が傷つく。
まして、妖魔におけるこの国の評価は『いつ消してもいい』なのだ。
これ以上、印象を下げさせてはならない。
そんな戸部を中心に、多くの官吏たちが徹夜で準備をしているため、王宮はもとより貴陽中にこの事が知れ渡っていた。
突然鳴らされた絶望への開幕の鐘、国のために犠牲となる国王…。
その劉輝のもとへ、秀麗と静蘭が駆け込んで来たのが夜半過ぎ。
二人とも今にも倒れそうなくらい青い顔をして、白くなるほどキツク唇を噛み締めていた。
「り…劉、輝…」
「主上…」
それ以上言葉が出てこないまま、二人は必死に劉輝を見つめた。
珠翠とともに明日のための服装を見繕っていた時だったが、劉輝は彼女に断って二人と話がしたいと頼む。
もちろん珠翠は頷いた。
「秀麗、すまないが少し待っててもらえるか?先に静蘭と話したい」
返事を待たず、劉輝は静蘭の手を取って部屋を出た。
秀麗は追ってくることはなかった。