Fiat Lux!

□Fiat Lux!【海と大地が生まれた】
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「んっ…?」
ふいに目が覚めて、劉輝は瞬きする。
見慣れぬ色形の天蓋が見え……何だが、前にもこんなことがあったような?

ぼんやりと考えながら、身を起こそうとする。
だが――

「っ!?いたっ…」
身を動かすだけで腹部とあらぬ箇所から痛みが襲う。


それで劉輝はしっかりと覚醒する。
自分は炎竜王に組み伏せられ、犯されたのだ。



―――細部の会話や二回目以降は朦朧として、ほとんど覚えていないことがせめてもの救いだろうか。
それにしてもここは何処だろう?
城とやらに着いたのか…それとも、まだ広すぎる馬車の中だろうか?

もし馬車の中だとすれば、また広い贅沢な部屋があったものだ。
一度寝かされていた部屋とは別の場所。


肌触りの滑らかなシーツに、精緻な紋様を施された掛け布団。
天井まで隙間なく貼られた品のよい落ち着いた色の壁紙。
飾り棚には劉輝が知らない動物や草花を模した銀細工や数々の瑠璃の杯と酒瓶が置かれ、
別の棚は府庫のようにぎっしり本が詰まっている。

天蓋付きの寝台を中央に、傍らには小さな円卓に銀細工の水差し。
向こうには美しい流線型の見事な木造の椅子と机。




……はっきり言って、彩雲国の劉輝の自室より、むしろどんな大貴族の自室より、豪華で上品極まりない。
前の部屋は本当に寝るだけの部屋という印象だったのに、ここはまるで贅を凝らして寛ぐためにわざわざ造った寝室だ。
そんな場所に、妖魔にとっては玩具でしかない劉輝を寝かせてくれるものなのか…

やはり人間と妖魔はそういう感覚が違うのかもしれない。


ともかく、劉輝は部屋の観察を止めて水差しに視線を向ける。
あんなに叫んで呻いては当然かもしれないが、ひどく喉が渇いているのだ。
重たい身体を何とか動かし、身を起こす。
幸い、寝室から下りなくても腕を延ばせば届く位置に置かれてある。
氷まで入ってひんやり冷たい水差しを手に取った。


が、あの凌辱は想像以上に劉輝の体力と気力を奪い去っていたようで、少し気を抜いた瞬間、水差しを床に落としてしまう。

ガッシャン!!と凄い音がして、劉輝は頭が真っ白になって凍り付く。
さらに追い撃ちをかけるように、扉が開き、冷たい美貌の女妖が姿を現す。

相変わらず口元を紗で覆い、涼やかな目元だけを晒している鋼華は一目で事態を把握したようで、慌てず騒がすただパンパンと手を鳴らした。
すると彼女の背後からするすると四人のよく似た女たちが現れたではないか。
あまりに突然で不自然な登場に、これも術を使っているのだろうと当たりをつけてみる。


劉輝が茫然としている間に、四人の下女らしき妖魔は零れた水と水差しを片付け、新しいものを劉輝にそっと差し出してきた。
困惑しつつもお礼を言って受け取ると、彼女たちは鋼華の背後に吸い込まれるように姿を消す。



再び劉輝と鋼華だけになった室内で、身の置き場がなくてまんじりしていると、鋼華が話し掛けてくる。
『お飲みにならないのですか?』
「あ…頂きます…」


手にしていた器を慌てて口元に持ってくる。
透明な水は柑橘系のさっぱりした匂いがしていて、まさに甘露のごとし。あっという間に飲み干してしまった。
ようやくホッと息をついていた、その時。



『身体の具合は如何ですか?中も清めさせてもらったつもりなのですが』




一瞬何の事を言われているのか分からず、きょとんと鋼華を見返した。


  
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