Fiat Lux!

□【神は言った】Fiat Lux!
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劉輝はふと、筆を置き書類から顔を上げた。
んっと伸びをしてから、窓の外では日が中天に差し掛かっていることに気付く。

「危なかったのだ」

今気が付かなければ、“また”昼食を抜かすところだ。
以前は“双花”が休暇時間をきっちり教えてくれたのだが、この数ヶ月、彼等は家のことで忙しいらしく、執務室で話すどころか顔も合わせていない状態が続いていた。


(二番目でもいい…なんて…)
待っていても振り返ってもらえない人を待ち続ける意味はあるのだろうか。
ただ待ち続けるなら、かつてと何も変わらないのだろう。

(それでも…一人は嫌だ)王になろうと足を踏み出した時点で、もう独りなのかもしれないけれど。



ガランとした執務室をぼぉと眺めていた劉輝はカタンと扉が開いたことにハッとする。

「あぁ、主上。頑張っておいでですね」
「悠舜殿…」

扉から入ってきたのは、彼の大切な宰相だった。
一瞬“期待”してしまった自分に気付かないフリをして、劉輝は笑顔を作った。
けれど、この聡い切れ者宰相はきっと、劉輝の心の動きを正確に見抜いているだろう。
それでも悠舜はそれを口にはしない。
どんなに辛く厳しい道であれ、それは劉輝が選んだものなのだ。
――劉輝は王位など望んでいなかったと知っていても。


「新しい書類をお持ちしました。ついでに私と昼食でもどうですか?」
「有難う悠舜殿。余もちょうど昼食を食べようと思っていたところなのだ」

穏やかな笑みを浮かべる彼を宰相にして本当に良かった。
そう思いながら、劉輝も微笑み返した。

今淋しくても、本当に一人ぼっちだった昔と比べれば、雲泥の差だ。
劉輝は誰の目にも映っているし、誰もが劉輝に会いたがる。
それが劉輝ではなく、王を求めていようと構わなかった。

劉輝の心には大切な光のような少女や兄がいる。
傍らには悠舜が支えてくれている。
恋人として、兄弟として…友人として見てもらえなくても大丈夫。
何番目でもいいから、ただ傍にいてくれるだけで満足。

淋しいなど、思うことが贅沢。
王には必要のない感情だ。


「そうだ。悠舜殿、後で聞きたい書類の事が……」

その時だ。





パリイイー――ィィン……




瑠璃の皿を叩き割ったような、甲高く澄んだ轟音が、昊から降ってきたのは。


 
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