Mechanical Hero

□Moving around
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「うわ、本当に生きてた」
仕立屋から出てきた三人に向かって放った、ローランドの一言がこれであった。

「生きてるってば」
アイリッシュがちょっとムッとしたように言い返している。それにローランドは声を立てて笑った。
そのローランドの後ろで、不機嫌そうに腕組をしている女性がいる。彼女の姿を見るなり、オスカーが彼女の名前を呼んだ。
「やあ、シャロン」
「やあ、じゃないってえの」
がつん、と凛とした声が返ってきた。
「全くを持ってあんたたちは、緊張感というものが無いっつうの!」
シャロンが、カツン!と銃の足を叩きつけたので、オスカーとアイリッシュがビクン、と跳ねた。

「イライラ、してる…?」
「してる!」
オスカーはさらにシャロンの気を逆立てた。お前、何してんの?とアイリッシュがオスカーの顔を見上げている。

「次、だらだら仕事したら、ぶっ放すよ!」
シャロンは問題児の二人を指差して、眼を強くして怒鳴った。
ローランドは、「おお」と何故か感嘆した声を上げ、レディが小さく吼えた。ヒューはあの呆れた眼差しを、その一部始終に向けている。
これには黙っている訳にもいかず、ふたりは素直に謝った。
「すみません…でした…」
「よろしい」

シャロンは、長い前髪を避けるようにくいっと顔を上げると、満足そうにそう言った。そして、さ、いくよ。と問答無用で身を翻す。
オスカーとアイリッシュは、色々な問題がまだ解決されていないことにはっと気がついた。
いつもそうだ。シャロンと話すと、彼女の一方通行っぷりに、自分の知りたいことは一つも聞けないのだ。

「おい!」
その後に、コラ!と付いてしまいそうな勢いでアイリッシュが言った。コラ!なんて付いたあかつきには、それこそ“ぶっ放される”のだが。
シャロンが長い髪を揺らして、ゆっくり振り返る。
「シャロンとヒューはどうしてここに居るんだ」
「そりゃあ、アンタ、今日“出張”がおわったからだよ」
「それは分かるけどさ!」
さっさと質問に答えて、また歩き出そうとするシャロンを止めようと、アイリッシュは必死だった。
「どうしてここにジャンクが居るのが分かったんだって聞いてる」
その質問に、ようやくシャロンは「ああ」と納得してくれた。

話しを聞けば、元々、ここがシャロンとヒューの最後の仕事場となっていたという。
そもそも、シャロンとヒューは、ヴォルファイアの“出張ジャンカー”をしているジャンカーだ。ジャンクは主に、ビッグ・ベンのあるロンドンに出現するが、稀にロンドン郊外にも現れることがある。このジャンクを片付け、報酬を得て、少しでも他の組織と差をつけようと考えているジャンカー組織が、この出張ジャンカーを雇っている。
シャロンとヒューは、一ヶ月前にロンドンを離れ、郊外の町へ仕事をしに行き、その後追加依頼などをきちんと片付けながら、ロンドンに戻ってきたのだ。
この仕立屋の元持ち主から、「機械を放置したままだ」と言う通報がずいぶん前に入っていたのだという。それを、最後に片付けてから休暇に入ろうと考えていたらしい。

「なぁんだよー!」
うんざりしたような声を発したのは、オスカーである。
「じゃあ、報酬はシャロンとヒューにしかないってことじゃないか!」
「そういうことだよね」
にや、と馬鹿にしたような顔でヒューが言った。

「俺はタダ働きという言葉がきらいです!」
「いやだぞ、最悪の事態は避けたいぞ!」
オスカーとアイリッシュは流石に必死である。この数日、問題を起こした上に、ボスには釘を刺されている。

「だから、ローランド!割り勘!」
「うそぉ」
オスカーの言葉に、ローランドは苦笑いした。
くーん、とレディは鼻を鳴らす。彼女の楽しみにしていたササミは、どうやら今週は抜きである。
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