Sky Caribbean
□Rain days
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目を覚ました。
呼吸が整っていない。心臓の部分をぎゅっと握っていた。悪夢だ、この時期になると見る悪夢。
むくり、と起き上がった。窓をみると外は夜になっている。どのくらい眠ったのだろう。何回あの悪夢をみたのだろう。幾度後悔したって、時間は過ぎてゆくだけなのに。
またベッドに倒れこんだ。
いい加減、心配になってきた。
ヴィッツは今日の夕食を用意しながら眉間にシワを寄せる。
ロンドンが部屋に篭って6日目。そろそろ出てきてもらいたいものだ。食事のときにも顔をださず、声も聞かない。死んでいるんじゃないのか?そんなことまで脳裏によぎる。
厨房に水を飲みにサカナが入ってきた。さっきまで銃撃の練習をしていたのだろうか、髪の毛がぼさぼさだ。
「それ、ロンの分?」
サカナは、また皆の食事とは別にトレーに用意された夕食を見て言う。
「うん…まだ篭りっぱなしなんだ。」
サカナにはすでにロンドンのことを話してある。この時季になるといつもこうなってしまうということを。
「僕がもって行こうか。どうせ暇だし。」
サカナはそう言って、トレーを持ち上げる。ヴィッツも料理で手が離せない状況だったので、サカナの言葉に甘え、持って行ってもらうことにした。
そして、サカナはあの火薬臭い部屋の前に来ていた。
((これって、床に置いちゃっていいのかな…))
サカナはトレーを持ったまま、部屋の前で少し考えた。ヴィッツとはあまり無駄話をしない。なので、とくに食事はどこにおくのか聞いていなかった。
ヴィッツは食事をそのまま床においてしまっているのだが、サカナはなんだかそれが、失礼な気がして思い切ってノックしてみる。
コンコン、
返事は無い。
「ロン!」
ノックをしながら呼んでみる。しかし、返事は無い。
「ロン、夜ご飯!!」
しーんとしたままの部屋、サカナも、ロンドンは死んでいるんじゃないのか?と思った。
「入るよ!?」
そう言って、思い切って部屋に入った。
考えてみればロンドンの部屋に入るのは初めてである…。
火薬臭かった。長テーブルに敷き詰められたフラスコやら試験管、髑髏マークのかかれた数々の薬品。爆弾を自分で作っているからだろう、色々な道具が置いてある。
ロンドン本人はというと、ベッドで眠っていた。スースーと寝息を立てている。
サカナはとりあえず、トレーを長テーブルの開いているスペースに置いた。ベッドと長テーブルの距離はかなり近い。たった数センチくらいだ。
ふと、テーブルの上に、爆薬とは無縁の物を見た。
懐中時計である。
綺麗な銀色。ロンドンのものだろうか。
長いチェーンはテーブルに垂れ下がり、ベッドの端っこのほうまで揺れている。
懐中時計はパッカリと開いていた。そのフタの表面に写真がはめ込まれている。あぁ、よく、こういう所に写真はめる人いるな、ロンもその一人なのかと暢気に思っていたサカナだったが、その写真の人物を見て驚いた。
綺麗な女性だったのだ。
我目を疑った。
“誰?”とりあえずその疑問が浮上する。
女性は本当に目を疑うような美人で、長いウェーブのかかった髪…やわらかい笑みを浮かべている。その表情は本当に優しくて、細めた瞳は吸い込まれそうだ。
しかし、写真の色は色あさせていて、写真の色は茶色と白しかない。
この綺麗な人は、誰なんだろう。
恋人? とっさに思いつくのがそれしかない。いや、選択肢がそれしかない。母親という論もあるが、それはないだろう…ロンドンはどう考えても“マザコン”ではない。仮にマザコンだったとしても、サカナの頭がそれを認めない。
恋人…あの爆弾卿に…?
いや、まさか…爆弾を所かしこから繰り出すあの容赦ない男に誰がほれるのだろう。確かに、ロンドンはカッコイイ方…なのかもしれない…