Sky Caribbean

□リーザー
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その日、銃撃の練習中、集中していたサカナは自分の腕に何かが絡みついたのを感じてどきりと反応した。
慌てて腕を見るとエレの鼻である。この鼻には何度も驚かされると思いながら心臓を落ち着かせる。しかし、今日のエレのどこか元気がないように感じる。
急いで耳栓をはずして、「どうしたの?」と問いかけた。
エレはサカナの腕から鼻を放し、しゅんと俯いてしまう。

サカナは焦った。また自分はエレに何かしてしまったのだろうか。いろいろと最近の自分の行動をおもいだしてみるもののぱっと閃かない。焦りがただ募ってゆく――そんなサカナの口から出たのは謝罪の言葉だった。
「ご、ごめん!」
「何で謝るの?」
「あ…ごめん…」
沈黙が起きた。これでは話にならない。
「サカナはいつもそうだお。謝りたいのは僕なのに、いつも君から謝るんだ…ずるいお…」
「ご…ッ…あ、うん…」
サカナの心臓はいまだに速度を緩めることがなかった。謝るな!と自分に言い聞かせる。
「…サカナ、ごめん」
エレは改めて謝った。

「何故?」
サカナはしゃがんで彼の目線になって優しく聞いた。
「君をリーザーにあわせお(よ)うと思うんだ」
その言葉にサカナの瞳が驚いたように広がった。
「だけど…危険を伴う…今日は機嫌が悪いから。僕、リーザーにサカナと会って話したいって言われていたんだ。でも、リーザーはサカナに何するか分からないから、それを避けてきたんだ。でも…今日ばかりは…」

サカナが“リーザーの事”を知ったら、この船に居たくなくなってしまうだろうか?
サカナは痛手を負うだろうか?
リーザーのブラックリストに載ってしまうだろうか?

そして何より、サカナはリーザーを嫌うだろうか?

もし、自分がサカナとリーザーを合わせる事を拒んでいなかったら、もっと早く2人をあわせていたら、ここまでリーザーの機嫌は悪くなっていなかったろうに。
はやく会わせておけばよかった…。


「大丈夫さ。リーザーは、僕をちゃんと治療してくれたろう?大丈夫だよ。」
心配をするエレに、サカナは言った。
「でも、あの時は爆弾卿が居たから…」
爆弾卿とは、ロンドンのことだろうか、とサカナは思った。
エレはまだ不安そうだ。リーザーとは、それほど危険な人物なのだろうか…。

確かに、自分はリーザーのことを知らない。声も聞いた事がない。ただ、発明家ということと、気分屋で特別な扱いを受けているという事。そして、エレと何らかの関係があるということ…分かっているのはたったそれだけだ。けれど、今はエレを安心させることに努めた。
「大丈夫。僕は平気だよ。」
サカナは練習場の扉を開けて廊下へ出た。
エレもちょこちょことついてくる。
「エレは、僕のためにリーザーに会っちゃ駄目だって言い続けてくれたんでしょ?僕もリーザーに色々とお礼がいいたかったしさ。」
「…でもサカナ、僕は君に迷惑かけてばっかりだ…」
サカナはエレを励ますように言ったけれども、エレはそれきり俯いてなにも話そうとしなかった。
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