Sky Caribbean

□傷と傷
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横腹が焼けるように熱い。
「あっけなかったかな…もすこし、遊んだほうが良かった、かなぁ」
フィリンガーはうずくまるサカナを見て言う。
「残念だったね。俺は君の欲しいものを持ってる」
そう言って、彼は哀れなものでも見るかのような視線をサカナに投げた。
「鍵、探してる?」
そう言ってニヤリと笑った。

(こいつ…歯車の鍵を持ってる…!)
サカナはうつ伏せのまま、フィリンガーを睨んだ。フィリンガーははいはい、と困ったように笑う。
「それじゃ、俺もとっつぁんが待ってるんで」
かちゃり、と再びサカナに改造された指を向ける。止めをさすために。

(コア…)
浮かぶのは、生きろと言って死んでいった親友の名前。
立ち上がらないと、このまま死んでなんてゆけないのに――。悔しくて涙が出そうだった。
弾を装填する音を聞いた――

「リィフィッシュ。返事をしろ。そこにいるか?」
ふと、声がした。その声で目を開ける。聞き覚えのある声。でも、ライズじゃない…誰の声と考えずとも、答えは出た。

「ああ、貴方が…銀龍…」
フィリンガーが振り返って呟いた。
「銀龍」という通り名の正体…それは自分の船長。ローウェンである。

「…船長…」
サカナの目にローウェンがハッキリうつる。あの夕焼けがはっきりうつる。

ローウェンの片手には細長い剣が握られていた。剣の刃の部分には血やらオイルやらがべっとりついている。

(あれ一本でここまできたのか…!?)
サカナはローウェンの剣に目を見張った。

フィリンガーは苦笑する。
「盲目の船長…ローウェン…船長ご本人に登場されちゃ、まずいかな。」
「フィリンガーか」
「情報早いね」
フィリンガーが苦笑する。

「私の部下を撃った罪は重いぞ。」
ひゅんっと剣が空を切り、ローウェンはフィリンガーの顔に刃先を向けた。
一瞬、フィリンガーは驚いた表情をしたが、すぐに微笑む。

サカナがフィリンガーの手元の動きを見逃すはずが無かった。
フィリンガーの指の銃口がわずかにローウェンの方を向いたのだ。

そして銃声が響く…――撃ったのはサカナだった。

うつ伏せになりながらも、左手で体を支え、右手はしっかり銃を持っている。
銃弾はフィリンガーの腹を貫き、彼は崩れるように倒れた。

サカナの呼吸が荒くなっている。また、自分は人を殺めた…?いいや、大丈夫。急所は狙ってない…

ローウェンは、倒れて動かないフィリンガーをすこしながめてからサカナにゆっくり近寄った。
「帰るぞ。リィフィッシュ。立てるか?」
そう言いながら、サカナの腕を自分の肩に回す。

「サカナ!」
丁度ライズが駆けつけてきた。
「あれ…船長!?」
ローウェンの姿を見るなり驚いていていたが、サカナは怪我をしているし、後ろには少年がぐったり倒れている。何が何だかよく理解できない。
「ライズ。また怪我しているんじゃないのか?」
ローウェンが落ち着いてライズに言う。彼の傷はさっきより増えていた。
「い、いや…それはそうですけど…こ、この状況は一体なんですか…?」
ライズは傷が増えた事をしぶしぶ認めると、片手を額に当てて聞いた。

「随分静かだが、何があった?」
しかし、ローウェンはその質問に答えず、軍艦の様子を聞く。
「軍人が、軍艦に戻っていきました。その前まではすごい数だったんですがね…。一人の軍人から、今回の狙いはサカナだと聞いたもんで、サカナを探してたんです。」
ローウェンはそうか…と呟いて視線を落とした。

(おそらく、フィリンガーが痛手を負うと、引くことになっているのだろう…)
そう少し考えると、静かに口を開いた。
「サカナはおそらく、一発食らった。後ろの倒れている少年にだ。フィリンガーという。」
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