Sky Caribbean

□雨
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船の甲板の床が押し開けられた。
サカナは床に手をつき、船内から甲板に上がる。耳栓をつけているので風の音も、波の音も何もしない。無音の世界。空はひどく雲っていた。
サカナは床の扉をたたむとゆっくり息を吐いた。

さっきまで、射撃の練習をしていたのが嘘のようだ。外はこんなにも穏やかなのに、地下では今頃、悲惨な日常が続いているのだろうか?

この船に搭乗して一ヶ月が経ち、さらにそれから数週間経ったが、そう地下のこと思うたびに同時にサカナを襲う底知れない罪悪感。
ふと、腰のベルトに入った銃を見た。
(もし、麻酔銃が鉛の弾丸になったとき、僕は何のためらいも無く、銃口を向けるのだろうか)
そう思うと、自分が恐ろしくなる。
父親からどんどん遠くなる。目指した背中が一体何なのか、忘れてはいけないというのに…。
ぎゅ、と目を瞑った。そのとき、腕に何かが絡む感触を感じ、サカナは目を見開いた。

「エレ?」
エレが自分の鼻をサカナの腕に絡めていた。頭には林檎とレピィが乗っている。
エレはジッとサカナをみている。エレは話すとき口元が動かないので、何か問いかけているのかと思い、サカナは急いで耳栓を取った。

「ごめん、何か話した?」
「ううん。ただ、銃の練習してたのって聞いただけだお」
エレはいつもの調子で答える。

「そう…」
「うん。そう。」
少し間が流れた。

サカナはエレの林檎に視線を移す。ライズやレアンから聞いた話だが、エレが甲板で林檎を食べるイコール、リーザーの機嫌が悪いということらしい。今日は機嫌が悪いのか…。

「…サカナも林檎がほしいの?」
エレが聞いた。
「えっ、あ、ううん。僕はいいよ」
(林檎見つめすぎたかな…)

「…そう。」
エレが急に視線を下に落とした。

「…あのね、サカナ。」
そして、しょんぼりしたままサカナに言った。

「不幸の臭いがするんだ…何かが起こるお。」
「不幸の臭いが…?」
「うん。不幸の臭い。この船はね、悲しい船なんだ。いつも、不幸の臭いがするんだお。それはね、きっと、皆が一人一人の不幸を背負ってきたからだと思うんだ。辛い記憶を忘れるって、難しいことでしょう?今は笑っていられても、昔の暗い記憶は残っている。皆の頭のなかにね。だから、サカナからも臭うお。不幸の臭い。服、捨てたのにね。」
ライズも、レアンも、ヴィズも…皆それを背負っているのだろうか…

「でも…今日は凄い臭うんだお。ローも、昨日の夜中から、ずっと情報を見ていて部屋から出てこない…何かが起こる。サカナは、君が取った情報の事聞いたおね?」
「うん…」
自分がアルエから取った情報の事はローウェンから、全員に知らされていた。スカイカリビア…空に歯車は眠っている。

「アルエが来ると思うんだ。アルエは、歯車の鍵で、僕らをおびき寄せる。」
エレは張り詰めた瞳でそういった。
サカナもそれは分かっていた。大佐はそういうお方だ、と。
大佐が上(地上)で何かしているという噂は、サカナが地下にいた頃からあった。まさかその地上で空賊を消そうとしているとは、サカナも思ってもみなかったし、空賊なんて聞いた事も無かったのだ。

「あの人のことはよく知ってる。僕も同感だ」
サカナは曇り空の灰色を見てそう言った。


急に、サカナが入ってきた甲板の床扉が勢いよく開いた。
エレとサカナの視線が床扉に飛ぶように移る。
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