Sky Caribbean

□倭寇
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船内の廊下で、サカナとライズは窓拭きをしていた。丸い窓の向うは穏やかな雲海がのぞける。
別にライズを避けるわけではないのだが、軍艦戦のあと、ライズに恐怖心を抱くようになったのは嘘ではない。
弾丸を使ったライズのあの姿を思い出してしまう。

「――シリアも人使い荒いよなあ。“暇ならお掃除手伝って”だってさー」
今、ライズに隣でなにか話しかけられている間でも、サカナは少なからず無意識の恐怖を感じているのかもしれない。その笑顔の裏に、何を隠しているのだろう。そう考えながら、適当にライズの話しに相槌をうつ。「うん」とは言ったが、空が見えるから窓拭きはすきなのだが。

「よーし、あと半分か。」
ライズがそう言ったとき、警報が鳴り響き、軍の襲来を知らせる。
ライズはサカナに声をかけて、咄嗟に駆け出した。

廊下を走っている最中に、ローウェンの声で注意があった。
「ライズ、聞こえているか」
「はーい!聞いてますぜ船長!」
「実弾は使うな」
そのローウェンの言葉に、分かってますよー!とライズは陽気に答えていたが――なんだかサカナも不安である。
「本当に、使うなよ」
横から怒ったようにそう呼びかけた。


甲板へ出てみると、スカイハンターの船が前方に見える。そして、少し早く甲板へ集合したらしい一味達はサカナを除いて真っ青になっていた。
彼らの視線にあるのは一隻の船だ。先端には龍の装飾、帆には見慣れない文字がある。

サカナの隣のライズはその変わった船を確認した瞬間、テンションががっくりと、それはもう、ガックリと落ちている。


「何だあの船…軍じゃなさそうだけど――」
サカナはライズに問う。
「あれはな…「倭寇」(わこう)っていう、俺達と同じ空賊だ…えっと…なんだ、ニッポン?“富士島”の…うわあ、来ちゃったんだ…」

富士島――きっとこの島も、ローウェンが言っていた“島”の一つなのだろう。
島は発明家でもあるリーザーの技術によって隠されていると、サカナは以前、ライズからそう教えてもらったことがある。おそらく、その島で暮らしているのだろう。


サカナがそのまた隣のレアンの表情を伺えば、彼女は目を見開いてほとんど放心状態になっているではないか。
(そんなに――!?)
サカナは心中驚いた。

「ああ…楽になるっちゃなるけどよう…暑苦しいというか…」
けどやるしかねぇかー、と呟くと、ライズはスカイハンターの船に乗り込んだ。その後を続くように、レアンやヴィズ達も乗り込んでゆく。
サカナは倭寇の様子を気にしながら後に続く。



甲板にはロンドンとエレが残された。
「わあ。羅李さんか。じゃあ私はなんにもしなくてよさそうだね。」
ロンドンはニッコリ笑って言う。
「倭寇…久ぶりだおね。情報聞きにきたんだね。」
エレがロンドンの足にぴったり体を寄せ、倭寇の船を見上げて言った。




スカイハンターの船につくと、サカナはなるべく弾の余計な消費をさけるため、銃を使わず軍時代に仕込まれた蹴り技を使う。アルエと再開したときの戦いの余韻からか、戦闘中はなるべく銃を握りたくなかったというのもあったが…。
しかし、レアンと手合わせを何度かしてもらっても、体術より銃の心得がある人間にとって、この状況全てを体術のみでやり過ごすのは困難なことである。
サカナは、ちらり、と自分のベルトに目をやると、思いつめたような表情で、ニ丁の銃を取りだそうとしたときだった。


「うおおお――!!」というような歓声が向こうから聞こえた。
「唸れ――ッ!!我大和・中華魂――ッ!!」
思わず歓声の方に目を見張る。向こうから、腰には日本刀、和服を召した大男達が走りながら攻めてくる。まるで「いくさ」だ。

サカナもそれには血の気を引かせた。
ほかの皆は「きてしまった…」とばかりにため息をついている。

(あれが…倭寇…)
その男達はでかい、でかい。そして、バッサバッサとスカイハンターをなぎ倒してゆく。

突然倭寇の一人が叫んだ
「おっ!お久しぶりっす!ライズの兄さーん!風祭り以来じゃないですかー!」
「お久しぶりっす!」
それに続けて全員が続く。

「その呼び方を止めてくれ!!同類になる!うつる!うつるっ」
何がうつるのか知らないが、ライズは相当嫌がっていた。

それを見ていたレアンは戦いながら、さりげなく逃げようとした。
「あー!レアンの姐さん!逃げないでくださいよー!俺達ですよ――っ!倭寇ですよ――っ!」
「姐さーん!」
レアンは「ぎゃあああああ」と悲鳴をあげ、スカイハンターを倒しながら道を明けるように逃げる、逃げる。

「おっとー!ヴィズ師匠!師匠――っ!!」
「師匠―――っ!」
今度はヴィズを見つけたようである。
「くんな!テメーラぶった斬るぞコラァ!お前等らにゃなにも伝授してねぇっての!」


なんだこの状況、とサカナは周りを見渡した。
(まだ完全にスカイハンターを倒しきってないっていうのに…!)
そう思い、操縦室を見上げると、数名の軍人たちが銃を向けているのに気がついた。動け、と心で怒鳴り、手をすばやく動かした。
ぱんぱん!乾いた銃声の音がいくつか響く。サカナが撃った麻酔銃は相手に命中したが、撃たれたときに手元を狂わせながらも引き金を引いたのか、相手の銃弾も乱射された。丁度人が居ないところに弾は落ちたが、誰かいたりしたら大事である。
「君達!なんのつもりだ!助けにきたのか、邪魔しにきたのか!?」
サカナは倭寇とライズ達に怒鳴った。危ないところだった!とサカナは鋭く言い放つ。

「そこの君!」
サカナが倭寇の先頭にいた大男をビシッと指差した。指差された男は、「俺?」と言う風に自分自身にを指している。

「下を見ろ、君が今踏んづけているのがこの船の艦長だ。」
「あ…」
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