Sky Caribbean
□赤鬼
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「それでも裏切り者は始末しなければな。」
アルエはそういうと、一歩足を踏み入れた。
サカナはそのアルエの“一歩”が、この男と少しでも距離が近づくことがどれだけ危険なのかを知っていた。
「さがれ!ライズ!!」
サカナが怒鳴る。
ライズはいつも平常心を貫いているサカナが真っ青な顔をして怒鳴るのを見た事がなかった。
何か大きな気圧を感じ、ライズは言われたとおり、数歩後ろに下がった。
なにかをドッ、と突く音がした。アルエを見ると、彼の大きく太い拳はサカナの腹を突いている。
「サカナ…ッ!」
ライズは彼の名を呼んで駆け出した。
「早撃ち、体術、素早さ、判断力、命中力…何もかもを兼ね備えたお前を、油断してはいけなかった…」
そう呟くアルエの頬からも血が出ている。
「まさか俺に発砲するとは…殺めるのももったいない」
アルエはニヤリと笑みを浮かべる。
アルエの肩にかかった、サカナの銃を持った右腕はダラリと力が抜けていた。
サカナは何も言わなかった。苦痛を表す表情さえしない。
(何故だろう? この人の前に来ると、僕は無感情になってしまう…―これじゃあ、改造兵と同じじゃないか…)
サカナは腹の痛みに耐えながら思った。
朦朧とする意識のその中でサカナは見逃さなかった。アルエの胸にある勲章のピンの数々の中の一つががチカチカと光ったのを。
そして、アルエの肩にかかったサカナの手はダラリと肩から落ちた瞬間、アルエは背後に気配を感じた。
ライズが機関銃を頭に突きつけていた。
「君がいるのを忘れていたよ。」
横目でライズを見ながらアルエは微笑した。
「悪いがその小僧は返してもらう。そいつを失うわけにゃいかないんでな。」
ライズが唸るように言った。
「それで俺を撃つのかね?」
そしてアルエはそう言いながら機関銃を横目で見る。
けれども、ライズは憎憎しい目のまま、苦笑して言った。
「無理そうだ。まだ死にたくないんでね」
ライズは、アルエを見た事はあったが、実際に戦ったことはない。
アルエは太めの銀色の棒の先を、サカナを支えるもう片方の手でもち、ライズに背を受けながらも先端をライズに向けていた。棒の先端から僅かながらも、火薬の臭いする。それだけで、その棒がいったい何なのかは予想がついたのだ。
ライズも横目で後ろを見た。改造兵がズラリとならんでいる。
「どうする…?赤鬼。不利だな」
アルエがニヤリと笑った。
「だけど、俺は一人で戦ってんじゃねぇんだよ」
そう言ってライズもニタリと笑みを浮かべた。
その瞬間、爆発音がしたかと思うと、ホールの壁が崩れた。