Sky Caribbean

□赤鬼
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気がつくと一人になっていた。
サカナは壁に寄りかかった。生きている。手を伝う血を眺め、自分の心臓に手を当ててそれを確認した。

今、サカナの目の前には軍人達が倒れている。ほとんどが改造兵であったという事が幸いしたようだ。
オイルの臭いがぷんぷんする。
自分の血の臭いもした。頬や腕から血が出ている。


―――オネガイ コロサナイデ…
記憶が蘇り、吐き気がして、口を押さえた。

今にも叫びたい。

おそるおそる、倒れている軍人に目をやった。麻酔銃だと分かっていても、確認しなければ気がすまない。腹部が上下するのを見た。それを見てほっとする自分がいる。

――どうして銃の練習をするかわかるか?

サカナの頭に、父の言葉がぽつりとうかぶ。

――誰も殺めずに、大切なものをその銃で守るためだよ




ガコン、
サカナの寄りかかっている壁が動き出した。ホールは2つにしきられていたようだ。
サカナは体を壁から放し、疲れきった目で仕切りの向こうの二倍になったホールを見た

「ライズ…」
サカナは呟いた。ライズがいたのだ。
ライズは機関銃を2丁もち、こちらに背を向けて仁王立ちで立っていた。周りには、円を描くように軍人達が倒れている。途中から麻酔銃が足りなくなったのか、血痕も見受けられるあたり、実弾を使ったのかも知れない。

サカナは初めて心のそこからライズへの恐怖が沸いてきた。なんのためらいもなく、その周りにいる全ての軍人を…――?

ライズはくるりとむいた。
「よお、サカナぁ…」
彼の口元は微笑している。
「そんなところでうずくまってっと、こいつらみたいになっちまうぜ?」
「これ…全部君が…?」

サカナが聞くとライズは「当たり前だ」と答えた。
「軍もおもしろい仕掛けをしてくれたもんだな…密室で俺を殺ろうとするとはなあ」
サカナは力が入らなくなっていた。動けない。それは何故?

サカナの顔色を伺ったライズが言った。
「…これが俺のやり方だよ」
ライズはサカナにそう言いながら近づき、腕をつかんでサカナを立たせた。
サカナは俯いて顔をあげようとしない。ライズはサカナがいたホールの方の倒れた軍人を見た。

「サカナ、すまないな。」
サカナは細かく震えていた。
「嫌なもの見せちまったかな…」

ライズはそういいながら、自分がたおした軍人達を見た。

そして、ライズは自分の目を疑った。全部倒したはずなのに、一人、体格の良い男が銀の太い棒を前に突き、凛々しく立っているのだ。口ひげに深く被った軍帽、胸のエンブレム。どうみてもただの軍人ではない。
男はサカナを見るなり言う。

「久しぶりだな。リィフィッシュ。」
サカナはその声に顔を上げた。
「アルエ…大佐…!?」
「知ってるのか!?」
ライズはサカナに驚いたように言った。

「しってるもなにも…この人は僕が軍にいたときの大佐だ…」
サカナの顔は自然に強張り、睨みつけるようになっている。
「俺の名前を忘れるほど馬鹿にはなっていなかったようだな。リィ。お前を手放すのはもったいないよ。銃の腕も錆びてはいないようだ。赤鬼と隼のおかげでお前に割り当てる兵を減らすことになってしまったことが惜しいよ。」
アルエはそういうと、口の端を吊り上げた。
「お前も親父さん似か…フェッゼと同じだ」
“フェッゼ”という名前を聞いてサカナの目が見開いて反応した。

ライズは2人が何の話をしているのか分からない。アルエとサカナを交互に見た。

「来るのか、来ないのか?正しくは、地下で処刑されるか…地上で殺されるか、だがな。」
アルエが微笑する。
「戻るつもりはありません。大佐。」
サカナが答えた。

「では、ここで空賊として処刑しよう。ライズもだ。」
その言葉を聞いて、ライズが機関銃を用意する。そのとき、自分の隣から、力強い声を聞いた。
「でも、殺される訳にもいかないんです」
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