Sky Caribbean

□“彼”
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ライズは、3部屋の空き部屋の壁をぶち抜いてつくられた広い部屋を、“練習場”とか“射撃場”と称していた。
どのように練習しているのか分からないが、一番奥の壁に貼られた鉄板はぼこぼこに凹んでいた。

「みんなここか甲板で色々やってる」
ライズは部屋の明かりをつけて、部屋を一端見回した。

「サカナ、足元に白い白線がひいてあるだろ?そこに立つんだ。」
彼はそういうと、壁についていたパネルを操作した。
パパッ、と白線の向こう側にネズミのホログラムが浮かび上がり、機敏に動き始めた。
「あれを全部仕留めたらたいしたもんだ」
そう言ってライズはサカナの横へくると、にやりと笑う。その笑みは明らかに人を馬鹿にしているかのようで、サカナは少しムッとした。

「どうだろう、ね」
そう言うにしては、ずいぶんと落ち着いている。まるで、“慣れている”というように…―。ライズは、銃を構えたサカナを見た。彼の頬に冷汗がうかがえる。
(大分緊張してんだな…)
最初から意地なんて張らなくちゃいいのに、と、銃の使い方やコツを聞いてこないサカナを見て、ライズは内心呆れのため息をつく。
しかし、そう思えるのもつかの間だったということを、ライズは知ることになる。

サカナはなれた手つきで弾を装填したではないか。それにはライズも少し驚いたように眉を上げる。

サカナは、震える手を睨みつけた。
(ばか、震えるな)
と言い聞かせる。
――目の前に、過去の記憶が蘇る。
そして、エレに言われた事が蘇った。

――悲しい事があったんだね…それ以外にもあったはずだ


ぱん!という発砲音のあと、中心を射抜かれて消えたホログラム。
「え?」
ライズはポカンと、サカナを見た。
次から次へと現れるネズミを、サカナは一匹たりとも外すことなく打ち抜いて見せたのだ。

そしてサカナは、ライズの驚いた顔を確認するように彼の顔をチラリと見ると、たった今現われたばかりのネズミを再び撃ち抜いた。銃弾は中心を打ち抜き、さらに連射された弾は、鉄板の同じところに傷を造った。
この年にしては、大人顔負けの腕前だ。それどころか…この腕前はプロである。
一瞬の沈黙の後
「お、お前…―――!」
何者なんだ!というライズの叫び声が響き渡った。

(まてまて…!!)
予想外の展開に、ライズは焦りを隠せない。
(こいつ、絶対只者じゃない…俺、なんかエライもん拾ってきたのか!?)

銃を撃った時のサカナの目は、鋭く、殺気を帯びていた。彼の冷たいままの視線が、ライズに移る。
「落ち着いてくれ。ここまで、名前しか明かさなかったことを謝るよ」
ライズは、大きく開いた瞳をまばたきせずに、耳を貸した。
「僕は、地中にいたころ軍人だった。」

「軍人…だと…?」

ライズが驚いて訊き返す。そもそも、空賊の敵は軍である。自分は敵を船にのせちまったのか!?と言わんばかりだ。
「あんな組織があるから…罪も無い人が死んでゆくんだ…!」
サカナはぎゅっと拳を握った。彼の発言に、何かを言おうとしていたライズは口を結ぶ。
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