Sky Caribbean

□空賊
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「何する気だ!」
少年は青ざめたまま男に言う。抵抗しようと腕を引いたが、男の力が強くてかないそうにない。それどころか梯子が上昇し、地面から離れてゆく。このままでは宙吊りになってしまう、と少年は慌てて梯子に足をかけるしかなかった。

どんどん梯子が船に近づいてゆく。
殺される…?
それだけが頭にあった。軍と対立していた様子はあったが、武器を持っていることころを見ると見方とは限らない。軍の敵だと分かったところで、自分の素情を知ったら殺される可能性もある。
――コアの死を無駄にできない。絶対に、できない。
少年の目が、決心を固めたように凍った。彼は船の床に足がつくや否や、床を勢いよく蹴った。男が驚いたようにびくり、と反応したのがわかった。しかし少年は、男に回し蹴りを食らわせようと足を振り上げる。
「あぶなっ!!」
男はそう口走りつつ、少年の蹴りをかわす。

少年は、床に手をついて身軽に体勢を立て直すと、素早く船の壁に足を突いて反動をつけ、男に向かってとび蹴りをしかけた。
一瞬傷の男の目が鋭くなったかと思うと、彼は伏せてとび蹴りをかわす。

(まずい…!)
少年は焦りを覚えていた。このままでは、捕まってしまう。このまま死んでは地上に出た意味がない。ひとまずこの船から脱出し、なんとか他の地上に住む人間を見つけなくては…。

着地したところから、勢いよく回し蹴りを食らわそうと足を上げたとたん、男に足をつかまれた。
男のその腕は、少年の足をがっしと掴んで離さない。警戒する少年とは裏腹に男は、彼のほうを見てニッカと笑った。

「小僧、お前、ずいぶん鍛えられてんだな」

そう言うと、彼は少し考えたような表情をして、足を掴む手をぱっと離してくれた。


「仲間にしてくれるよう、頼んでやろうか。戦力になりそうだ」
男の口から予想外な発言が飛び出したので、少年は目を見開いた。男は少年の驚いた顔を見て、ニタリと笑う。

「僕はもう、人を殺すような組織なんかには…」
「人を殺す?」
男は少し眉間に皺をよせて、不思議そうな顔をする。そして、思い出したように言った。
「あぁ、さっきのな。俺がさっき戦ってたの、人間じゃねえよ。ロボット。それに、“よっぽどのこと”がなけりゃ、俺たち“空賊”は殺しはしないんだ。それが船長の命令だからな」
船長は優しすぎんだよな、と男はぼやいている。

「く、空賊…?」
少年はもう一歩後ろに下がる。海賊ならまだしも、“空賊”なんて聞いたことがなかった。どんな本を調べたって、そんなことは載っていない。そして、最後のぼやきを聞く辺り、彼はどちらにしろ危険人物のようだ。

「あー。信じてねぇな。俺達は、海賊じゃなくて空賊。海賊とは違うんだ。ほら見てみ、船、飛んでんだろ?」

男が窓を示す。少年が窓を覗き込むと、雲の海が見えた。その美しさに、思わず息をのむ。

「さっき戦ってのは軍だよ。ちなみに今襲ってきたのは“スカイハンター”っつって、軍の空賊を滅ぼすためだけに存在する部隊な。あいつら、人手が足りないのか、死んだ人間改造してロボットにしてさ、それに戦わせたりしてんだ。気色悪ぃよな」
理解したか?と首を傾げるその男を、未だに驚いたように見つめる少年。赤毛の男は、鼻をふん、と鳴らした。

「お前、名前は?小僧じゃなんだろう。俺はライズ。この船の船長の右腕だ」
赤髪の頬傷のある男――ライズは嬉しそうにニヤッと笑う。
そんなライズからの殺気やそういう類の感情は、これっぽっちも感じない。さきほど機関銃を撃っていた時の瞳とは全く違う。澄んだエメラルドの色をしている。――そして、彼の話からして、軍は敵であるようだ。

少年は意を決し答えた――
「リィフィッシュ」
自分の名前を。

「…りぃ…ふぃっしゅ…?」
ライズは、言いにくそうに気難しそうに復唱する。

自分の名前がそんなにおかしく聞こえるのだろうか。
リィフィッシュは悩む男を怪訝そうに見た。
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