Mechanical Hero

□Crash party
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こつこつこつ。
ペンが上下する。アメリアの指に挟まれたペンが、こつこつと音を立てる。
 
アメリアは考えていた。疲れきった頭をさらにフル回転させて、報告書に向き合っていた。ちらり、と時計をみる。午前9時半。ああ、自分はもうどのくらいここにいるのだろう。ふーっとながい息を吐いて、片手で髪を掻き揚げてため息をついた。そしてまた思う。ああ、これは何回目のため息だろう。
 
(どうしろっていうのよ、あの一部始終を…!)
もう一度、書き上げた報告書に目を通し、乱暴に頬杖をついた。
フィガロとリンドーロ…。あの二人の変人の顔が脳裏に映る。『セリヴィアの理髪師』に『フィガロの結婚』。リンドーロは言った、あのオペラが好きだと。まるで、あのオペラを見たことがあるかのようであった。見に行ったのだろうか?なぜあのオペラの登場人物の名前を名乗る?考えることは山ほどある。
 アメリアは、ぼんやりと二人とオペラの関連性を考えるように、話のあらすじを思い出していた。
(ああ、そういえば…――)
アメリアは一つのことをふと思い出した。フィガロの結婚がイギリスで公演されたとき、会場でなにか事故が起きた気がする。けが人は居なかったが、ちょっとした騒ぎになったのだ…そうは考えてみたものの、どう関連づけても現実的なものにならない気がした。ますますジャンカーの存在を肯定してしまう。
フィガロ、フィガロ――心で幾度も連呼していると、思わぬ有名人が浮上した。『フィガロの結婚』を手がけたのは…
「モーツァルト…」
ぽつり、と口に出してみる。
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト…あー!彼も変人で有名だわ!」
「どうしたんすか、眼面しいっすね。独り言なんて。」
頭を抱えて突っ伏したアメリアに、向かいの席に腰を降ろした男が言った。

顔を上げて声の主を見る。その男は、鼻にシップをあてがって、いつも重そうなまぶたが更に重く見えるような顔をしていた。
「フィム…」
アメリアはその男の名前を口にした。
「あなた、どうしたのその鼻」
「いや、ねえ…」
と、フィムはいいにくそうに眼を逸らす。

「フィガロに蹴られた…」
「フィガロに!?」
アメリアは驚きの声を上げ一瞬立ち上がったが、次の瞬間へろへろと椅子に腰掛けた。

「鼻血でちゃってさ。あーあ、仕事サボろうと思ったのがバチ当たったかな。なんか百倍返しってかんじ…フィガロはむかつくけどさ。」
フィムもがっくりとしながら椅子に腰掛けた。

アメリアは報告書の端に、“また、フィガロと名乗る人物は、警官の顔面を蹴飛ばした。”と付け足した。フィムが、「報告書っすか?」と聞いたが、彼女の耳には届いていないようだった。アメリアはその一文も含め、もう一度読み返し――ぎゅっと報告書の紙を握ると、後ろのソファで寝ているアルウィスを叩き起こした。
「ほら、報告書、出しに行くわよ。」
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