Sky Caribbean

□会合
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夕暮れのなか揺らぐひまわりの間を、サカナは進んでいた。
風は昼間と比べて大分涼しくなり、ずぶ濡れになった服を少し乾かしてくれた。

今頃、グランゼールの皆はどうしているだろう。やはりそれぞれ手合わせなどしているのだろうか。


ふと、足を止めて、朝歩いてきた道を振り返ると、富士島の集落が一望できた。海岸には空賊たちの船が停泊している。
マストは降りて、遠くからでもいつもとは違う雰囲気が感じ取れた。
集落には柔らかい明かりがともり始めていた。

サカナはまた前方に目をむけると、ひまわりの中を進んだ。




ざわり、風が吹いて、ひまわりの大群が一斉にゆれた。

「…ヴィズ?」

サカナは、自分よりはやく慰霊碑の前に佇んでいた人物の名前を呼ぶ。ヴィズはゆっくりとこちらに振り向いた。

「…ああ、もうこんな時間か。」

ヴィズはサカナの姿を確認すると、首を軽く回してほぐした。

「お前ずぶ濡れだな。お前の上だけ雨が降ったのか。」
「違うよ。“修行”って言われて、すぐそこの海岸で鍛えられてた。」

サカナが言うと、ヴィズはサカナが小脇に抱えている、固体になった水影を見て、小さく「そうか」と呟いた。

風が一吹きした。
慰霊碑は夕焼けに照らされて、よりそこに人の心が詰まったように感じられる。その石の向こうは断崖絶壁だが、崖の下の海は限りなく広がっており、慰霊碑の向こうに目を向けると地平線が見えた。
その地平線は、サカナが陸に上がってきたとき見たものと同じ物のはずなのに、こんなにも雰囲気が違う。見るたび、形や雰囲気を変えるその風景。これが地球なのだろう…


「ヴィズはずっとここにいたのか?」
「ずっとじゃねぇよ。」

サカナが聞くと、ヴィズはすこし考えたようなしぐさを見せた。

「…朝少し手合わせして、そのあとずっとここにいた。」

しん、と一瞬その場が静まり返る。

「ずっとじゃなか。」
「…ずっとだな…」

ヴィズとの会話にしてはすこし、間抜けた感じがする。
ヴィズは、慰霊碑からその向こうの海へと視線を移すと、口を開いた。

「ここにいると、昔の仲間と繋がっている気がするんだよ。海も見えるし、慰霊碑もある。だからだろうな…ロンドン卿が篭ってるとき“早く過去断ち切れ”なんて言ったくせに、俺が一番引きずってんのかもしれねぇな。」

ヴィズは夕日に少し目を細めた。どこか、自分自身に呆れたような表情。

「俺は昔、海賊だった。」
ヴィズの言葉に、サカナは驚いたように目を大きくさせる。ヴィズは昔から空賊に居たわけではなかったのだ。

「倭寇っていうのは、もともと海賊でな。陸が沈んで航空期が訪れたときに、空賊と分裂したんだそうだ。俺はその海賊の倭寇の一味だった。」

ヴィズはそういうが、倭寇は今ひとつしかない。海賊の倭寇なんて、今はもう存在していない。ヴィズがここに居るということは、それはきっと…

「でも、倭寇は滅びたよ。一部の人間の裏切りによってな。」

ヴィズの目がサカナのほうを向いた。夕日で照らされて、赤みを帯びたその瞳から、目が離せなくなる。

「裏切ったのは軍だった。大切な人を殺したのも軍だ。」

その言葉を聞いて、サカナはその鋭いヴィズの眼力から、本能的に目をさっとそらす。それが自分自身でもとても情けなく感じた。

「裏切るって行為は、本当に人をどん底にまで叩きのめす。今までの時間を全て奪われたような、そんな絶望感に襲われる。おっかねぇよ。」

ヴィズは皮肉を込めたような笑みを零した。

「だから軍は嫌いだ。裏切るものはもっと嫌いだ。いくらお前を船長から仲間だと言われても、元軍人であると、心のどこかで警戒していたよ。レアンも、サカナも。」

ヴィズの言葉がとてつもなく痛い。できることなら、この場から逃げ出してしまいたかった。それでも、サカナの心がそうさせない。

「今も警戒してるのか?」

サカナは言った。
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