Sky Caribbean
□Rain days
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真っ白い部屋にいる。
いいや、部屋じゃない。四方八方は果てが無い。
ロンドンはそんな空間のど真ん中にいた。
腕の中に何かを抱きかかえている。しかし、それは何なのかまだ分からない。
ロンドンは必死にその状況を理解しようとしていた。
不意に、鼻を突くような火薬の臭い。その臭いに自分はなれているはずなのに、何故かとても臭う。
白い空間に灰色の煙が出現した。焦げ臭さが一層と増す。
その煙の奥から、ユラリと人が現れた。ロンドンは目を見開いた。そこにいたのは――
酷い焼けどを負った人。一人だけではなかった。何人も、何人も煙の奥から彼らは現れる。
声が出ない。いいや、出せない。立ち上がらない。いいや、立ち上がれない。
逃げられない。
「 お 前 の せ い だ 」
彼らは言った。
「 お 前 の せ い で こ う な っ た 。」
彼らはロンドンに向かって人差し指を向ける。
「…ちがう…」
やっと発した声。それでも焼けどの彼らは言う。
「 お 前 が あ ん な 物 を 作 る か ら だ 」
突然、ロンドンが抱えている“何か”が動いた。
いいや、抱えているのではない。“抱きしめて”いる。
“何か”はムクリと起き上がる。
顔が見えた。しかし、その顔の半分は焼けどで、ただれている。
それでも、その残った顔の半分は美しい女性の顔をしていた。
ロンドンは理解した。それは誰なのか。
「 アメイジア… 」
ロンドンは彼女の名前を呼んだ。
「そうよ。ロン。」
彼女のソプラノトーンの綺麗な声。懐かしかった。
「あなたが愛した、アメイジアだわ。」
そう、自分が愛した唯一の人。
「ロン、あなたは私を愛してくれた。」
そうでしょ?彼女はそう言ってロンドンに腕を回す。
「でもね」
声を潜めてアメイジアは言った。
「私をこんな姿にしたのもあなたなの。」
ずきん、と胸の奥が痛む。息が止まりそうだ。あの日の記憶が蘇る。
「だからロン、こんな姿になっても…」
アメイジアはきゅっとロンドンに抱きつく。
「私を愛してくれる?」