Sky Caribbean
□存在
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「でぇええんぽぉおお―――。」
そんな震えた声が、船長室に響く。
ローウェンの机の上に小さなトンボがとまっていた。よく見てみれば、小型のロボットである。
「でぇええんぽぉおお―――。」
トンボが叫ぶ。どうやら、“電報”と言っているらしい。
「風神(かざかみ)さまの収集命令によりぃいい―――、今から一ヶ月後ォオ―――…」
ローウェンは何も言わず、その音声を聞き取る。
「風祭りを開催するぅううう―――――!!」
やっぱり…とローウェンはため息をつく。アルウェイがちらりと口にした、『風祭り』。やはりアルウェイの情報に嘘はない。
「場所はあぁ――例年通りィ――富士島――!富士島――――!!」
トンボはそう叫び終えると、小さな羽根をキリキリと動かして窓へ飛び出し姿をけした。
あの甲高い声が止み、船長室はしんと静まり返った。
「クソじじぃ、って思ったでしょ?」
無線の方から羅李の声がした。
「思ってない」
ローウェンは答える。
「嘘。今のアンタ、そんな顔してるよ」
ローウェンの横に現れるモニターには、キセルをふかす羅李がいた。
「しょうがないでしょ。“風おじじ”が主催なんだから。うちのヤツラ、富士島の輩も今準備に頑張ってる。――1ヶ月後ねぇ…、富士島は7月か。初夏だね。」
薄着してきなさいよ、暑いから。と羅李は言う。
「――ドンパチ、しないの?」
羅李は訊いた。
「鍵を争奪に成功した。すぐに動いたら警戒が厚いままだ。厄介なことになる。――クルーも絶不調が一人いるしな。」
「ああ、あの爆弾男?」
羅李は煙を吐きつつ言う。爆弾男――ロンドンのことだろうか。
「彼、この時期になると篭るわよね。何故?」
「あえて訊いていない。人には言いたくない過去があるものだよ。彼がその気になったら、聞いてやればいい。」
ローウェンのその返答に、羅李はつまんないとあからさまに顔に出す。
「“ドラゴンフライ”(トンボ)の電報の方法は、他に何か無いのか。あの電報は頭がいたくなる。」
ローウェンはそう言うと、椅子から立ち上がり、見えない目で外の雲海に視線を落とした。雲に夕焼けが反射して赤らんでいる。
「ドラゴンフライだって、アンタの目に気ィ使ってやってんのよ。」