Sky Caribbean
□プラマイゼロ。
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ライズはしばらく、何も言わなかった。
サカナも、何も言わないライズに話しかけるでもなく、ただ、彼が生まれ育った島を見つめているだけだった。
歯車の上に沈黙が流れる。
「俺はさ、」
ふいに、ライズが口を開いた。それは、長い沈黙をやぶり、しっかりサカナの耳へ届く。
「ここで船長に拾われて、空賊になって、10年以上たって、今またここに居るって不思議だな。一番行きたく無い場所に舞い戻ってきちまった。」
ライズそう言って、ニッカと笑う。その笑みは、“作り笑い”ではなくなっていた。ライズはもうこの島にきて、ふっきれたという感じだ。
「人間の運命ってさ、嫌だ嫌だって思っていると、大体の確率でそれが起こるんだよね。」
サカナが言う。
「運命には偶然がない、全てが必然ってゆうもんだから、もっと残酷。まるで、逃げるな!って首輪にリードつけられてるようだ。」
そう言うと、一息ついて遠くを見た。
「でも、人間って、そういうことがあるから強くなるんだと思う。」
サカナはそう言って、少し笑った。
「なるほど。」
ライズは横目でサカナを見た。
「お前がそんなこと言うの、すごい意外だな…なぁんか気持ワリッ!!」
ニヤリと笑う。
「う、うるさいな!」
サカナは少し顔を赤らめて、慌てて言う。あとから自分らしくないことに気づいて、言葉を放った自分が信じられない。
「で、もう元気でた!?いつものライズに戻ったのか!?」
「あ、ライズだって!!久々にサカナに俺の名前呼ばれた気がする!!会話中はいつも君とかコイツとかでさ!」
「知るかッ!!君だって僕の名前、本名で呼ばないだろう!?…帰ろう!歯車の一部って…どうやって持って帰るんだ…!」
サカナは必死で話題を変えた。なんだか、焦れば焦るほど恥ずかしくなる。
「歯車の一部だろ?」
ライズがきょとんとサカナを見た。
「安心してろ。そんなどでかいもんじゃない。歯車に所々についているネジも、歯車の一部だ。」
ライズは、歯車のネジを持ってかえろうと言っているのは、サカナにもわかった。
「ネジって、歯車の一部に入るの…?」
サカナが問う。
「はいるだろ。」
ライズの返答にサカナが不安そうな顔をすると、ライズは笑いながら、大丈夫!大丈夫!とサカナの頭をばんばん叩いた。
(((あ――信用できないッ!)))
サカナはしぶしぶネジを取り外す。ライズと手分けして、歯車のネジを全て抜き終わると、ライズが言った。
「あ、そうそう、俺がここの島の出身だってこと、秘密な。船長とリーザーとエレしか知らねぇんだ。」
「うん。言わないよ」
サカナはしっかりとそう言ってから、おかしなことに気が付く。
「どうしてエレもしっているんだ…?」
「どうしてって…そりゃあ…俺が船に乗る前からエレがいたから…?」
ライズは少々困っている様子だった。どうして、そんな当たり前のことを聞くのかと。
しかし、サカナはどんどんわからなくなっていく。
ライズの話だと、ライズが船に乗ったのは10年以上前。それよりさきにエレが船に乗っていたということは…
「エレはいつから乗ってんの…!?」
サカナがライズに訊く。顔が真っ青だ。
「そ、そんな興奮すんなよ…!エレは、グランゼールが船長だった時からいるはずだ!それがどうした?」
ライズはなにがなんだかよくわらからない。
「それって、エレは僕たちより、歳上ってこと!?」
「あぁそうだよ!なんなんだ!?」
「おかしい…」
サカナの顔が青くなる。
「エレは…子象だ…話し方も幼稚だ…成長…してない…!なんで、僕たちより歳上なのに、成長してないんだ…?もう、10年もあれば、大きな象になってもいいはずだ…」
サカナのその言葉にライズは一瞬目を反らした。
「サカナ、」
ライズが言った。
「その事については、何も触れるな。エレ本人にも訊かない。エレの前でも話さない。普通に振舞ってろ。」