Sky Caribbean

□鉛の悪魔
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その日は、異常なほどに静かだった。
船長室で耳をそば立てれば、船が風を切る音しか聞こえない。が、その静寂に近い空間に無線の呼び出し音が響くのはまもなくの事だった。
「ロー。」
幼い、少年の声。しかし、その声の主と自分との仲は「腐れ縁」と言っていいほど長い。
「アルウェイ。どうかしたか…」
ローウェンが応答した。
「君に…頼みたい事がるんだ。」
幼い声はそう言った。
「……聞こう。」









「前回の情報奪回で空の歯車を回すには、鍵がいるっていうのが分かったわけなんだけど…」
アルウェイが話し出した。
「でも、現実、鍵が目前にあるのに、鍵の存在に気づかないということがあったわけで。」
確かに、フィリンガーとの戦闘で、鍵はフィリンガー自身の体内にあったものの、気づかず逃してしまっている。
「それに、フィリンガーの体内に鍵があるって事を知るためのハッキング、大きな危険を伴ったんだよね。多分、これからも鍵のありかを調べるのに時間がかかる上、危ないと思うんだよ。そこで…なんだけど…」
ここでアルウェイは言葉をきった。
「鍵の探知機を作ろうと思う。」
「…どうやって」
ローウェンは唐突に自分の疑問をぶつけた。アルウェイのロボット達でさえそれほど大変なハッキングを、どうやって探知機に縮めるのか。器械一つで鍵の在り処を教えてくれるのなら探知機なんて、作れるものならとうに作っている。なにせこの船にはリーザーという科学者がいるのだから。

「そ、れ、でッ!コレ見てロー!」
アルウェイが急に興奮しつつ、何かの画像をこちらによこした。ローウェンの目の前に画面が浮かび上がる。

「…アルウェイ…」
「ん?」
「すまないが、目が…」
そう、ローウェンは目がほとんど見えていないのである。
「…んー…今、ローの目の前にある資料は、鍵と歯車の共鳴を解析したものなんだけど、」
アルウェイは、少し悩んだ末、目の不自由なローウェンに言葉で説明をはじめた。

「どうやら、鍵と歯車は特殊な電波を出し合っているみたいなんだ。ホラ、フィリンガーの鍵から、空へ向かって特殊な電波が出てるでしょ?あ、いや、出てるんだ。うん。で、僕はこの電波を利用して探知機を作ろうって思ったわけさ」
アルウェイは得意げに言い切った。

「訳は分かった。だが、どうやって利用する気だ。」
「そりゃ、歯車の一部を使って、共鳴度の大小で探ればいい。」
歯車の、一部を使う?ローウェンは眉を寄せる。
「どうやって歯車の一部を手に入れる?」
ローウェンが言うと、無線の声はクスリと笑った。
「ロー、忘れたの?歯車のひとつが落下した島があったじゃないか。」
アルウェイのその言葉に、ローウェンの濁った瞳孔がぐっと開いた。
その島は、確かに存在する。リーザーの開発した装置によって隠されていたが、歯車が落ちた事によって発見されてしまった。今では、軍側についた海賊のたまり場になっている。
しかし、ローウェンが絶句したのには別の理由があった。
「アルウェイ…知っているだろう?その島は…」
「知ってるよ。」
アルウェイはニヤリと微笑んだようだった。

「だからこそ頼んでいるんだ。彼なら島の地理を分かっているだろうし、もし海賊に絡まれたりしたら僕には戦闘能力がないしね。それに君のところにはリーザーもいるから、歯車の一部を採取したら、探知機を簡単に作ってくれるさ。」
ローウェンはアルウェイの言葉に、口元を手で覆い考え込んだ。
「頼まれて、くれるかい?」
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