Sky Caribbean

□グランゼールの料理人
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「ついに行っちまうんだなあ」
とある島の料理店の亭主はその日、自分の弟子を見送っていた。
「お世話になりました。」

まとめた大きな荷物をいったん床に置き、薄茶色の髪に、首にゴーグルをかけた少年はお世話になった師匠とその奥さんに別れを告げる。

「グランゼールの方々によろしくね。しっかりやるんだよ!」
奥さんが背中を押すように少年に言った。
「はい。」
少年は朗々とした目でそう答え、少しの間2人をながめていると、島の住人がどたばたと走って店にやって来た。
「来たよー!空賊船、港に着いてる!」
と、店に駆け込んできた男が言った。

「じゃあ、お元気で!」
少年は荷物を持つと慌てて店を出る。

「ああ、頑張るんだぞ、ヴィッツ!」
主人と奥さんは外に出て、少年に手を大きく振っていた。




グランゼールの料理人



「帰ってくる!?」
「うん!ローから聞いた。」
エレがそう言うと、ライズの動きが一瞬停止した。そして、エレとライズは長い廊下に響くほどの声で叫んだ。
「うおっしゃあ―ッ!」
「あさっぱらから…」
すぐそばの部屋から出てきたのはサカナだった。ぼさぼさの髪で、重そうな瞼、目には迷惑そうな色が浮かんでいる。

「サカナぁ!きいてお!うちの船の料理人が、この船に戻ってくるんだお!」
エレは何時にもまして、きらきらした目でサカナに駆け寄ってきた。
「この船料理人いたの?」
サカナは驚きつつエレを見て聞いた。
サカナがこの船に搭乗してから半年以上経ったのだが、この船に料理人がいたなんて話は一度も聞いた事がない。今まで当番制で食事を作ってきたのだ。

「あいつは今まで修行に出ていたんだ!ってことは、もう、食事が当番制じゃあなくなるんだー!」
ライズがニコニコ笑いながら言った。
「ってことは…――」
サカナが少し考えるのを合図にしたかのように、2人と1頭の声がユニゾンした。
「レアンの作った食事を食べなくても済む…」
そう、レアンの料理はこの世のものではないのである。
「ああ、僕、ちょっと涙が…!」
エレが耳で目を隠す。
「偉い偉い!お前は良く耐えたよ…!」
ライズがエレの頭を撫でてやる。

「レアンが食事当番だった時のあの地獄の一日を忘れないよ。僕は。」
サカナは遠くを見つめながら言った。
「ありゃあ、悲惨だったよな…」
「全員が食中毒で戦闘不可能。」
またまたはもる。
「あれは痛かった…」
サカナが顔を片手で抑えて言う。
「無事だったのはローだけだおね。ライズが毒味したから…」
「ちげぇよエレ、ロンドンもだ…あいつ、こっそり逃げやがった…!ああ、やっとまともな飯が食える」
ライズは本当にうれしそうだった。どこで培ったのか知らないが、ライズの作る料理はまあまあ形になっていたのに、とサカナはちらりと思う。
とこころで、本当にレアンは材料に何を入れたのか。

「あ、いたいた!サカナ!ライズ!」
聞きなれた声――2人と1頭は後ろを振り向く。
(レアン…!)
3人の頭は真っ白になった。まさか、今の話を聞かれただろうか…

「れれれ、レアンッ!おお、おはよう!ど、どうかしたか?」
ライズはあえて通常を振舞おうとしたが、振舞えていないのがまた彼らしい。

「ヴィッツを迎えに島に上陸するそうだ。いい機会だから、船の破損した部分を修正するらしい。ってことで、お前らは甲板の手すりを頼む!ヴィッツが帰ってくるんだ、この船を綺麗にしないとな!」
何事もない様子のレアンを見て、2人と1頭は心からほっとした。
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