Sky Caribbean

□星
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目を覚まして、すぐに飛び込んできたのは自分の部屋の天井だった。
サカナの視力が、聴覚が、感触が、だんだんもどってゆく。復活した聴覚が聞き取ったのは、廊下で誰かが言い争うような声。
「絶対いかねぇぞ!」
「いまは仮に縫い合わせているだけなんだから、リーザーのところでちゃんと縫合してもらわないと!」
ライズとロンドンのようだ。まだ麻酔で筋肉が硬直しているのか、首がその方向にまがらない。

「傷口が開いてもいいの?」
「知るかってんだ!リーザー前から俺の腕をほしがっていただろ、今回絶対持っていかれる!」
ライズが言い返す。

「リーザーへは私からよおく言い聞かせておくから。前にそう言って治療受けないで、傷口化膿して、大手術したでしょ?」
「腕がなくなるより、化膿したほうがましだ!」
だんだん声が遠ざかっていくのが分かった。――が、しばらくすると、誰かが足音をひそめてこちらに近づいてくる。首の筋肉が硬直していてドアを見ることができない。
カチャリと弱い音をたてて、部屋ドアが開かれた。目だけを動かしてその方向を見る。そこにいたのは、ライズだった。彼は、廊下に人が通らないかどうかを確認しており、後ろ姿しか見えない。
サカナの筋肉の硬直もだんだんとゆるんでいく。サカナは自分の体に麻酔がかかっていた事を確信しながら、ライズのほうに首をむけた。
ライズは、先ほどの話の内容と、上半身の服を着ていないことから、さっきまで治療を受けていたのかもしれない。サカナのその目にライズの背中が映り、サカナは目を見開いた。
ライズの背には数え切れないほどの縫合の跡、銃弾の跡…

(なんだ…あれ…)
声も出せず、ただ驚きながらライズの背中を凝視していると、ライズが服を着たので、その傷跡は隠れてしまった。
サカナがゆっくりと上半身を起こすと、ライズがこちらを振り向いた。いつもの赤い布は頭に巻いていない。一瞬別人かと思った。
「おう、起きたか。」
彼は左隣のサカナを少しみて、それだけ言うとベッドの隣の椅子に座り、肩の包帯を取り替えだした。
「うん。」
サカナも視線を正面にして答える。
「リーザーがお前の治療をしたよ。お前は麻酔で眠ってて、リーザーをみていないだろうが…」
はらわたを触ってみると、包帯が丁寧に巻かれていた。そう、サカナはロンドンに運ばれる最中から気絶したままだった。そのまま麻酔を打たれて治療されたようだ。
しばらくの沈黙のあと、ライズが口を開く。

「俺はお前の言っていたことが間違ってないと思う」
ライズの言葉に、サカナは彼の顔を見た。
「お前が言ってたことだよ。」
サカナの記憶が蘇る。そういえば、そうだった…エレに怒鳴られた気がする…
「サカナの言分にも、一理あると俺は思う。」
ライズの目は真剣だった
「人を殺す事は、命を奪う事は、絶対に間違っている。それで世界をつくるのは、間違っている。」
そしてその彼の声は今までに聞いた事がないほどに真面目だ。
「…うん…」
サカナは正面を向いたまま目線を反らさずに答えた。
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