Sky Caribbean

□黒い船
1ページ/5ページ


それでも時間は進むのだろう。人の心などお構いなしに。
サカナは窓から、ぼうっと空を見上げてふとそう思った。時間は気まぐれで身勝手だ、と。
サカナが空賊の一員になってから二週間ほど経ったが、船の暮らしにはまだ完全に慣れ切れないのが事実で、食堂でみんなして食事を取っているが、テンションについていけない。あんなにうるさい食事は初めてなのだ。一緒に食事を取っているのはライズとヴィズとレアンとシリアのメンバーで、船長やエレ、“リーザー”は自室でとるのだという。もう一人一味がいるというが、何かを“開発中”なのだそうで部屋で食べている。よって、サカナ自身、まだ対面していない一味が二人もいる状態だ。
皆で取る食事の時間が重なるのは夕食のみで、それ以外は各自ばらばらのようだ。
食事は当番制で、サカナにも回ってきたがシリアが気を使って換わってくれた。作れなくもないのだが、シリアは「遠慮しないで、来たばっかりなんだから!」と言って作ってくれていた。ちなみにレアンが当番のときの雰囲気がすこぶるおかしかったので、きっと彼女の料理は破滅的なのだろうという予想はついた。そんなときはライズかシリアが代役をやはりかってでていた。
普段は射撃の練習をしたり、自室にいたりすることが多い。今まで4度戦闘があったが、どれもスカイハンターの襲来であった。始めて戦ったときのものよりも数は少なく、回を重ねるごとに要領を覚え、手の震えもなんとかおさえてこられた。しかし、いつも脱走時に命を落とした親友のことが頭によぎり、いたたまれなくなる。時間が経ってもそれはどうやら同じらしい。

この日もサカナは独り自室で新しい自分の銃を磨いていた。軍で何度もやっていたこの作業。手馴れたものである。
綺麗に黒光りする銃を見て、サカナは少し辛そうに目を細めた。




空は快晴。
ライズは甲板に出て、鼻歌交じりに機関銃の手入れをしていた。ふと、前を見るとローウェンが柵の前で景色を眺めているのを見つけて、ライズは手を止めた。

「船長」
盲目のローウェンはきっと自分に気づいていない…と思ったがしかし、ライズに呼ばれた彼の目は、後ろで武器の手入れをしているライズにむいた。やっぱり気がついていたのだろうか、と苦笑した。

「気分良がいいんですか?」
ローウェンが甲板に出る事など、ほとんどない。珍しいことなのだ。だからライズはそう聞いてみた。

「手入れか?」
ローウェンは聞き返した。

「はい、サボってるとこいつら拗ねちゃうもんで」
ライズは笑って言う。

銃をガシャガャいじくりまわす音で、ライズが何をしているのかはローウェンには分かっていた。ライズも、ローウェンの聴覚の良さを理解している。

分かりきっているが何故か敢えて会話する。何かを確かめるように。こんな会話が当たり前なのである。


ローウェンは空を見る。
ライズは機関銃を整備する。
しばらく、お互い別々の動作をして、沈黙していた。

そして、ローウェンがその沈黙を破る。
「軍がリィフィッシュを目当てに軍艦で私達を追っているらしい。」
「もう、そんな情報はいったんですか。」
声は平然としていたが、ライズの顔はニヤリと笑っていた。

「ああ、アルウェイからな。たぶん、こちらが無線電波やらを読み取っている事は向こう(軍)は承知だ。これは挑発だろう、とのことだ。」
ローウェンは、そういいながら船の入り口の扉へと歩き出す。
「ライズ」
そして、ライズを呼んだ。

「はい。」
ライズは銃の手入れの手をピタリと止め返答する。もう、ローウェンがこの後、何を言うか分かっているかのように。

「敵方の船を沈めるつもりで行ってくれ。」
ライズは笑みをもっと深くし、返事の代わりに銃をガシャンと音をたてた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ