Sky Caribbean

□灰色の瞳。青目の象。
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ノック音なんて音は、自分の鼓動に掻き消されてしまいそうだ。サカナは目を見張り、ライズによって丁寧にドアが開かれるのを見ていた。
ドアの向うの静かな広いその部屋の真ん中には舵があり、その前の大きなガラス張りの窓からは雲海が見渡せる。部屋の隅には広めの机が置いてあり、周りにはなにやらスピーカーの多い機器達がごちゃごちゃと置いてある。
しかし、巨大な窓より、舵より、機械に囲まれた机よりも、特に印象深く残ったのは――大きなガラス窓の前に静かに佇む、夕焼け色の背中であった。サカナはその色が何色なのか知らなかったが、優しい色だと思った。
こちらに背中を向けて静かに雲海を眺めているのが、この空賊の船長なのだろうか。“夕焼け色の背中”の正体は、彼が羽織っているコートであるようだ。サカナは知らずのうちにその背中を食い入るように見つめていた。

「ローウェン船長、さっきはばっちりなタイミングでしたよ!感謝します!」
ライズは入るなり早々、“船長”に呼びかける。
船長と呼ばれたその男が振り向いた。特徴的な銀髪。その後頭部で、長い部分を束ねている。長めの前髪の間から、力強い瞳が此方を見ていた。その瞳の色は、珍しい灰色だ。
イメージしていた“悪の中の悪人顔の船長”とは全く異なった人物に、サカナは少し驚いた。

「ライズか?」
船長が言った。落ち着いた、しっとりとした、優しい声だった。
「はい!それはそうと船長、今日は良い手土産があるんですよ」
やはりこの男が船長のローウェンらしく、ライズは比較的丁寧に話をする。
「この坊主はサカナって…」
「リ、リィフィッシュです」
サカナはライズが言い終わる前に言った。
サカナはそう言いつつも、鼓動が高鳴っているのを感じていた。何故なら、この圧力…威圧感はなんだろう。頬に傷はないし、機関銃をぶちかます様子もなく、明らかにライズよりは悪人顔ではないのにライズよりも恐ろしく感じる。しかし、野蛮な雰囲気はない。立ち竦んでしまいそうな、強大なものの前に出てきたような感覚だ。

「どこから来た?」
「地中からです」
「地中人か…地上のことは、もう聞いたか」
その問いに、サカナは「はい」と答えた。そうか、と言って宙を見るローウェンの目を見て、サカナは彼がどこを見ているのか分からないような、変わった目をしていることに気づく。その灰色の目は濁っているようにも見えた。

「ライズ」
ローウェンはライズに呼びかける。何が言いたいのだ、と問うように。
「仲間にしてやって下さいませんか、こいつを」
ライズはそれに答えるように言った。
まるで、ローウェンはライズの言うことを分かっていたかのようだった。再びサカナに視線をふっ、と戻すと、彼に問うた。
「リィフィッシュ、地中はどうだ」
「地下の世界は…格差社会の格差は広がり続けるばかりで、死人やデモ、テロは耐えません」
サカナの眉間の皺が深くなり、拳をぎゅっとにぎっていた。

「そうか…自分の意思で、力で、知恵で、ここまできたということか」
ローウェンに言われ、サカナは顔を勢いよく上げた。
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