Sky Caribbean

□序章
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ぼくらはまだ、その青いはらわたを見たこともない。






暗く、ジメジメした地下を二人の少年が走っていた。
聞こえるのはお互いの足音と、地下の壁に張り巡らされた無数のパイプを流れる水の音。

「コア、大丈夫かい?」
先頭を走っている少年が、自分の後ろを走っている少年に呼びかける。

「なんとか、大丈夫」
コアと呼ばれたその少年は、息を切らしつつ、先を走る少年に答えた。

「追っ手は?」
「わかんないけど……まだ、見つかって、ない」
途切れ途切れに会話した。

外に出れば、『空』が見れる。こんな生活とはお別れできるんだ。そして、ここから出て…僕等は…――

コアは走りながら、目の前を見据えて自分に言い聞かせる。

環境悪化により、何百年も前に地球の陸は沈んでしまった。
水に住処を奪われた住民は地下に住むようになった。しかし、その地下での生活は決して平和で、快適なものではない。

権力のある者が上に立ち、力の無いものは奴隷のようにあつかわれる…。大総統とされる人物が世界の頂点にたち、その人物が指揮を執る軍が、逆らう者達を弾圧し、身勝手でずさんな政治によって、格差社会がうまれていた。

…そして、この少年達は今、地上に出ようとしている。

「いたぞ!」
ついに、軍人達が二つの影を見つけた。

「やばい!走れ『リィ』!!」
コアが後ろから先頭を走っている少
年に怒鳴った。

“リィ”と呼ばれた少年はスピードを上げる。

正面にぼんやりと光が浮かびあがる。今までに見たことのない、「人工的」でない光。

「コア!見えたぞ!!出口だ!!」
“リィ”が叫んだときだった。

銃声が地下にとどろいた。

一瞬、何が起こったのか理解に戸惑いつつ、彼は後ろを見た。
コアが撃たれて倒れこんでいる。

コアを見た少年は軍人に向かって、逃げるときに持ち出した催涙弾を投げ、コアに駆け寄った。

彼は目の前の光景を信じたくなかった。
「――――コア…?」

そこには、コアが腹に手を押さえ、うつ伏せでもがいている光景があった。血が、冷たい地面にだんだん広がっていく。

「行くんだリィ…!!行くんだ!」
それでもコアは言う。
「な、なに言ってるんだ!置いていけるわけがないだろう!」
「ここで、諦めたら何もかもがおしまいなんだぞ!?」
コアが言った。朦朧とした目だったが、彼が本気だという事は少年にも分かった。
コアはさらに少年の腕をがっしりと掴んだ。
「僕ら二人で仲良く捕まって……いままで僕らのやってきた夢や努力をなかったことにするのかい!?」

コアが怒鳴るように言う。少年は言葉をつまらせた。

「でも…!」
「二人で犬死になんて許さないぞ!!!走れ!行け!!リィ!」

リィと言われた少年は、ぐっと唇を噛みしめ、固く拳を作った。そして、
「――――分かった。」
“リィ”は呻くようにそう言って、出口の天窓を見据えると、羽織っていた上着を
脱ぎ、コアにかけた。



軍人達が煙を掻き分けて、銃を向けたがそこにはただ冷たくなっている少年が一人、横たわっているだけだった。

「くっそ…」

追っ手の軍人たちは悔しそうに、銃を捨てた。

その日、ひとりの少年が、地下世界からの脱走に成功した。
 

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