Sky Caribbean

□静寂
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グランゼールの甲板に、サカナとライズ、シリアとエレの姿があった。富士島から離陸した後、4人はそのまま甲板に佇んでいた。
風祭りの期間にしか、地上に居なかったのに、何故か空の空気が久々に思える。
空の温度は、鼓動と呼応している。
地球にも、脈が流れているのか。
どくん、どくん。
目を閉じると聞こえてくる、地球の鼓動。いや、それは…風の音かもしれない。

サカナはしばらくその風の音を聞いたあと、船内へと入っていった。
シリアも満足気にふーんっと鼻から息をはくと、サカナの後を追うように入ってゆく。

甲板に残されたのは、ライズとエレ…。




二人はなにも言わなかった。ただ、空の温度を感じていた。
愛おしそうなその瞳は、空に――。


「…ライズ、」
エレから、ライズに呼びかけた。
珍しいことに、ライズは少々驚いた表情でエレの方に向いた。

「ずっと、ずっと言おうと思っていたんだ…」
「ん…?」

何を言われるのかと、はらはらした。思わずズボンのチャックをさり気なく確認した。
しかし、その言葉は、意外なものであった。

「ごめんね。」

声が、出なかった。
何故、彼は自分に謝っているのだろう。

「なんでエレが謝ることがあるんだよ。」
ライズはやっと声を発する。深刻そうな声色をしているエレを励ますように、にっこり笑った。

「僕が謝っているのは、君をこの世界に引きずりこんでしまったことだ。」
エレは言う。
ライズは唖然とした。意味が、良く理解できない。

「君を発見したとき、真っ先に島に預けていればお(よ)かったんだ。でも、僕らはまだ幼い君に“戦い”を教えた。」

ライズの顔が真面目になる。エレの瞳が、ライズを貫く。

「そして君は、戦いを覚えたんだ。」

ライズの狂った目。
彼が軍人に銃口を向けている姿。
実弾許可が下される度、喜んでいた。

そんな彼を見る度に、エレの不安は大きくなっていた。
確かに、軍人は空賊達を殺す気で戦う。ならば、こちらだって容赦しなくていい。以前はエレも、そう思っていた。しかし、いつもライズの戦う、狂った姿を見るときは、何故か辛かったのだ。エレも軍を恨んでいるはずなのに、“あの戦い方”を見ることが、辛かった。
そして、エレの心にトドメをさしたのは、サカナだった。サカナが撃たれたあの日、彼は叫んだのだ。「こんなの、間違っている」と。あの時エレはその言葉を否定したが、それから目が覚めたのかも知れない。
いまだに、サカナには彼の言葉が自分にどんな影響を与えたのかは伝えていないが…。

そして、今になってエレは思う。
もし、ライズを島に置いておけば、こんな人間にはならなかっただろうに。
そんな“凶暴”な人間にしてしまったのは、自分達がライズを引き取ったからだ。

ライズを船に乗せた当時のグランゼールは、まだ復活を遂げて間もないころだった。焦りもあったのかもしれない。
でも、だからといって…

「君の目を狂気に染めたのは、僕らだ。」

エレは申し訳なさそうに、頭を垂れた。
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