短編小説
□歌は
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――――――きみがいないなら
――――――意味なんてなくなるから
ギャラクシーとの最終決戦からもうそろそろ十年近くの年月が経つ。その間にシェリルは目覚めることはなく、またアルトも帰ってくることはなかった。この十年間、ランカは一度たりとも休むことなくシェリルに血液を提供し、中和に手を尽くしてきた。愛していると、アルトにそう言われて倒れたシェリルの表情は、とても心安らかなものだった。
「シェリルさん……」
――ランカちゃん
どうか、どうか起きてください。アルトくん、お願い。早く迎えに来て。
だれもが未来へと進んでいくなか、ランカの未来はいまだ止まったまま。
***
どれだけの時間が経ったのかなんて、アルトにはわからなかった。ずっとたゆたうようにバジュラクイーンと共にこの銀河を旅してきていた。新しく惑星を見つけるまで、そしてまた彼らが人間たちにそのちからを利用されることがないように。それでもどこかで帰りたいと思うようになった。
――アルト――――っ!!
耳に残る、シェリルの声。美しかった、気高かった、自分の初恋だった。忘れていた、ずっと、ずっと。稽古がつらくて逃げだした自分に、やがていつか銀河を震わせてみせると言いきったシェリルとは、違ってしまったから。楽しみに待っているとそう思っていたはずなのに自分はそれを忘れ、そうして生きてきてしまっていた。そして十年ぶりの再会。シェリルは覚えていたというのに、自分は忘れて……スパイだとなんだのとシェリルを疑い、なかなか素直になることもできず、そしてランカを守らなければという思いが強くて彼女を―――そう、彼女を宇宙に放りだす結果になってしまった。これ以上歌えば死んでしまうというのに、シェリルは歌うことをやめなかった。
――――生きるために、歌った。
けれども、いまは。
――――歌うために、生きてる。
「シェ……リ………」
手を、伸ばした。ふわふわとした感覚のなかで、まるで母親の子宮にいるかのような、そんな場所で。ゆっくり、ゆっくりと、手を伸ばして、そして――――。
一気に身体が引っ張られて、アルトはそのまま意識を失った。